米国テキサス州を襲った異常寒波による吹雪の影響で州都オースチンにあるSamsung Austin Semiconductor(Samsung Electronics子会社)のS2ラインが長時間にわたって停電状態となったが、これにより世界の300mmウェハファウンドリの生産能力は1〜2%が損なわれたとの見通しを半導体市場調査会社のTrendForceが発表した。
電力会社による半導体工場への操業停止命令とそれに引き続く送電停止(停電)によりS2ラインは2月16日(現地時間)に操業を停止せざるを得なくなった。TrendForceによると、電力会社が停電の数時間前に各社に通告できたことから、各社ともにファブのシャットダウンに向け、事前に準備ができたため、仕掛りロットの全滅は避けられた見込みである。
また、S2ラインの月間生産能力は、世界全体のほぼ5%を占める規模であり、今回の停電措置により、世界の300mmウェハ生産能力の約1~2%が損なわれたと推定しているが、停電の影響がいつまで続くかは、依然として天候次第という状況が続いている。2月19日より徐々に気候が回復し、それに併せて段階的に電力の復旧が進むものとのTrendForceの仮定によれば、S2ラインは少なくとも1週間後に完全稼働に戻れるとの見通しだという。
しかし、現地紙Austin American-Statesmanの報道によると、Austinの停電は18日時点ではまだ復旧しておらず、市内の学校も23日まで休校することが決まっているという。Austinは今週、気温が25℃にまで上昇することが予想されており、今回、同州が非常事態宣言を出す事態となった降雪と低温がいかに想定外の事態であったことかがうかがいしれる。
TrendForceによると、S2ラインが採用しているプロセスは14nmおよび11nmで、主にQualcommの5G RFICの製造に使用されているという。また65nm~28nmのプロセスも提供しており、SamsungのシステムLSIの製造を韓国にあるS1およびS3ラインと分担しているほか、Teslaやルネサス エレクトロニクス向け車載半導体の製造も行っているという。
今回の停電におけるウェハの損傷は公式には報告されておらず、流れている製品のリードタイムは若干後ろ倒しになる程度の影響とみられるが、このリードタイムの増加が、半導体市場の需給ひっ迫状態を悪化させることが懸念されるとTrendForceでは指摘しており、これによりさらなる不足に自動車を中心とする各業界が頭を悩ませる可能性があるという。
SSDコントローラの製造遅延で、SSDが値上がりする可能性
SamsungのS2ラインは創業時にはNANDの製造を行っていたが現在はすでにやめている。しかし、14〜40nmプロセスを活用してNANDフラッシュ/SSDコントローラの製造をしており、それがNAND市場にも影響を与える可能性があるという。
S2ラインへのSSDコントローラ向けウェハ投入量はそこまで多くなく、かつ事前に停電対応ができていることを考えると、コントローラ市場全体に大きな影響がでることは考えにくいが、すでに今後のSSD調達についての交渉を開始しているPCメーカーならびにクラウドソリューションプロバイダ(CSP)が、追加のSSD調達を行おうとすれば、需給ひっ迫の影響から値上げを受け入れる必要がでてくる可能性があるという。
なお2021年第2四半期のSSD価格についてTrendForceは、クライアントSSDは「ほぼ横ばい」、エンタープライズSSDは「わずかな下落」という以前の予測を変えてはいないが、一部のSSD購入者が値上げを受け入れるようならば、SSD全体の価格がプラスの軌道で動く可能性もあるという。
オースチンのほかの3工場の状況は不明
オースチンにはSamsungのほか、NXP Semiconductorsが2工場(いずれも200mm、旧Freescale)、Infineon Technologiesが1工場(200mm、旧Cypress)を有しているが、これらも16日以降停電に見舞われた。ただし、その被害状況については公にされておらず不明だが、いずれも古いプロセスながら、車載半導体の製造なども行っているとされており、米国の自動車業界への影響が懸念されている。
このほか、台湾のハイテクメディアであるDigitimesによると、ハイエンドのNORフラッシュも今回の低減で不足する恐れがあるいう。