東北大学は2月18日、ショウジョウバエをモデルに、飲酒量が日に日に増大する脳内メカニズムを発見したと発表した。

同成果は、東北大大学院 生命科学研究科の菅野舞氏、同・市之瀬敏晴助教(学際科学フロンティア研究所兼任)らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

アルコールは脳の報酬系に作用し、一時的に楽しい気分をもたらす。しかし、過多の飲酒が習慣化すると、飲酒量を自分の意思でコントロールできなくなり、アルコール依存症を発症するリスクが増大してしまう。

新型コロナウイルス感染症対策として、飲食店などに入るときは手の殺菌に利用していることからもわかるように、アルコールは本来、大半の生物にとっては毒だ。しかし人類とアルコールのつき合いは長く、ある意味、アルコールとともに進化してきたといえるほどである。

アルコールは大それた技術を必要としない。自然界でも果実が発酵すればアルコールとなるため、人類も遥か太古の樹上生活をしていた時代から、果実を主食のひとつとしてきており、その時代からのつき合いと考えられている。経験則的にアルコールに殺菌作用があることを知り、食中毒を防ぐために進んで摂取するようになったという説もある。その結果、アルコール分解酵素を肝臓に備えたアルコール耐性のある人が子孫を増やし、アルコール好きの多い現在の人類となったというのである。

人類以外にも、この地球上には例外的にアルコールを好む生物がいる。昆虫のショウジョウバエだ。昆虫も全体としては決してアルコールが好きなわけではなく、ショウジョウバエも特殊な存在である。ショウジョウバエがアルコールを好きな理由も、果実を主食としていることに理由があると考えられている(英語でショウジョウバエはFruit flyと呼ばれる)。つまり、人類と同じで、果実の自然発酵酒に接しながら進化してきたといえるのだ。

しかも、ショウジョウバエのアルコール好きは、人類と負けず劣らずというほど。アルコールを与え続けると、好きなだけ摂取し続け、その摂取量が日に日に増大していくのだ。まさにアルコール中毒であり、そのためアルコール依存症モデルとして研究用途に用いられているのである。

そこで市之瀬助教らは今回、アルコールの摂取量が増大するメカニズムを解明するため、ショウジョウバエにアルコールを与え、与えなかったショウジョウバエとの脳の比較を行った。

アルコールを自由に繰り返し飲んだハエはアルコールを与えられなかったハエと比較すると、脳内で大きな変化が起きていた。アルコールが報酬系に作用することはわかっていたが、快楽の伝達物質である「D1型ドーパミン」の受容体の量が増えていたのである。飲めば飲むほど、酔えば酔うほど気持ちがよくなるメカニズムが脳に備わっていたのだ。このことから、アルコール摂取の増大を妨げるためには、ドーパミンの放出を阻害する、もしくはD1ドーパミン受容体遺伝子を破壊する(D1ドーパミン受容体ができないようにする)ことが効果的であることが明らかとなった。

さらに、ショウジョウバエのD1ドーパミン受容体の量を人工的に増大させてアルコールを摂取させる実験も行われた。すると、通常のハエと比べて異常にアルコールを摂取するようになることも観察されたという。D1ドーパミン受容体は餌の匂いの記憶など、脳の高次機能に重要な役割を果たすことが知られている。しかし、今回の研究により、その過剰な活性化は飲酒量の増大というリスクをもたらすことが解明されたのである。

  • アルコール中毒

    ショウジョウバエの脳内におけるD1ドーパミン受容体の可視化画像。左がアルコールを与えられなかったハエで、右が自由に摂取できたハエのもの。アルコールが反復して摂取されると、D1ドーパミン受容体の量が増大する (出所:東北大プレスリリースPDF)