名古屋大学(名大)は、金銭的報酬がもらえる課題を行うと、その課題を実施する前に見た、金銭的報酬とはまったく無関係の写真の記憶が促進されることを示し、脳内における報酬系と記憶系の増強関係を直接的に実証したことを発表した。

同成果は同大大学院環境学研究科の北神慎司 教授と米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の村山航 研究員らによるもの。詳細は、米国科学誌「Journal of Experimental Psychology:General」に掲載された。

同研究の実験は、大学生の実験参加者を対象に、写真を受動的に見てもらい、その後、成功すると報酬がもらえるというゲーム課題と、報酬がもらえない課題のどちらかをすることを求め、1週間後に写真に対する抜き打ちテストを実施する形で実施された。

その結果、報酬がもらえる課題の直前に見せられた写真の記憶が、報酬をもらえない課題で同じように見せられた写真に対する記憶よりも高まっていることが示されたという。

従来のこうした研究から、報酬がかかると、ヒトは写真や単語を、報酬がかからない場合にくらべて多く覚えることが示されており、脳内における線条体といったドーパミンが関与する報酬系と、海馬などの記憶系が密接に関係していることが示唆されていたが、ほかの解釈可能性もあった。

今回の研究では、報酬がかかった課題を実施すると、その直前に見た、課題とはまったく関係のない写真の記憶が、1週間にわたって促進されることを示すもので、これは脳内における報酬系と記憶系が密接に関係し、記憶を増進すると仮定しない限り、説明が難しい現象であることを示す結果であると研究グループは説明する。

また、こうしたこれまで直接的な証拠がなかった脳内における報酬系と記憶系との増強関係を、直接的に実証したことについて研究グループでは、お金はヒトのモチベーションを高めるだけではなく、それとは無関係なものに対する記憶も高める、接着剤的な作用があることを科学的に示す成果とコメントしている。

実験の概要

2つの実験対象者に対する記憶テストの成績比較(*は統計的に意味のある差を表しているという)