米国航空宇宙局(NASA)は2021年1月8日、小規模なミッションで宇宙を探索することを目指した新しい計画「パイオニアーズ(Pioneers)」について、4つの宇宙物理学ミッションのコンセプトを選択したと発表した。

選ばれたのは、銀河の進化や太陽系外惑星、中性子星の合体、超高エネルギー・ニュートリノなどを観測、研究するミッション。

それぞれに与えられる予算はわずか2000万ドルで、少ない予算の中、小型衛星や気球、既存の技術や部品などを駆使し、宇宙にまつわる大きな謎に迫る。

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    中性子星が合体した際の想像図。このような大規模なイベントが起こると、破片の一部が光速に近い速度で移動する粒子ジェットとなって爆発し、ガンマ線の短いバーストを発生させる。パイオニアーズ計画は、わずか2000万ドルという予算で、こうした宇宙の謎を解明することを目指している (C) NASA's Goddard Space Flight Center/CI Lab

パイオニアーズ計画

パイオニアーズ(Pioneers)計画は、NASAが2020年に立ち上げた宇宙科学プログラムで、2000万ドルという少ない予算、それゆえの小規模なミッションで、大きな科学的成果を出すことを目的としている。

過去にこれほど少ない予算で宇宙物理学ミッションが行われた例はなく、最終的にミッションの実施が承認されない可能性もあるという。NASAでは、個々のミッションが成立するかどうか以前に、パイオニアーズ計画そのものが成立するかどうかも実験だとしている。

2000万ドルという予算内で大きな成果を得るため、個々のミッションの責任者は設計に工夫を凝らすとともに、既存の小型衛星の技術や部品などを購入して使用したり、他の政府機関が開発した望遠鏡を流用したりなどといった工夫も必要になる。

NASAではまず、基本的な要求を示したうえで、米国の大学や研究機関、NASAの各宇宙センターなどから提案を募集。その結果、アリゾナ大学の「アスペラ」、NASAゴダード宇宙飛行センターの「パンドラ」、NASAマーシャル宇宙飛行センターの「スターバースト」、シカゴ大学の「プエオ」の4つが選ばれた。

今後、それぞれのコンセプトに予算が与えられ、概念研究が行われたのち、審査を経て、実際に打ち上げや飛行の承認を受けることになる。その時点でミッションが成立していなかったり、予算を超過することになったりし、審査を通過できなければ、前述のように実施されないこともある。

NASAのトーマス・ザブーケン(Thomas Zurbuchen)科学局長は「これらのコンセプトの提案者たちは、インパクトのある宇宙物理学ミッションをいかにして低コストで行うかという課題に対して、革新的で既成概念にとらわれない発想をもたらしてくれました。それぞれのコンセプトが実現されれば、他のNASAのミッションではできないことを行い、そして宇宙全体の理解の重要なギャップを埋めることになるでしょう」と語っている。

また、NASA宇宙物理学部門のポール・ハーツ(Paul Hertz)部長は「提案を募集して以来、大学や研究機関、NASAの各センターなどから、2ダースもの素晴らしいアイディアが寄せられました。2000万ドルで天体物理学において素晴らしい成果をあげられるかどうかはわかりませんが、私たちは挑戦したいと思っています。提案が実現する日を心待ちにしています」と語る。

選ばれた4つの提案

アスペラ

アスペラ(Aspera)はアリゾナ大学が提案しているミッションで、紫外線望遠鏡を積んだ小型衛星を使い、銀河と銀河の間にある「銀河間物質(intergalactic medium)」と呼ばれる高温のガスや、銀河からのガスの流入、流出を調べる。

銀河間物質は、宇宙の主要な構成要素であるにもかかわらず、その測定が十分に行われておらず、アスペラによる観測によって銀河の進化について明らかにできると期待されている。

パンドラ

パンドラ(Pandora)はNASAゴダード宇宙飛行センターが提案しているミッションで、可視光と赤外線を使い、恒星やそこにある系外惑星を観測する小型衛星である。

太陽系外にある惑星は、これまでに数多く見つかっており、そのうち恒星の前を通過する、「トランジット」を起こす惑星については、惑星の縁の大気を透過してくる主星の光を分光する「透過光分光法」によって、その惑星の大気の成分などを調べることができる。しかし、恒星の活動によって正確な測定値を取得できない場合があり、系外惑星の特徴づけにとって妨げとなっていた。

そこでパンドラは、太陽系に比較的近い、20個の星と39個の系外惑星を観測し、恒星と系外惑星の大気の信号を、はっきりと分離、区別できるようにすることで、恒星の光の変化が系外惑星の観測にどのような影響を与えるかを理解し、観測対象の系外惑星の水素や水、雲の有無や量などを正確に測定。生命が居住可能な、もうひとつの地球のような系外惑星の探索に役立てることを目指している。

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    パンドラの想像図 (C) NASA's Goddard Space Flight Center

スターバースト

スターバースト(StarBurst)はNASAマーシャル宇宙飛行センターが提案しているミッションで、大質量の星が超新星爆発を起こしたあとに残る高密度の天体「中性子星」が合体する際などに出る、高エネルギーのガンマ線を検出する小型衛星である。

近年話題の重力波望遠鏡でも検出されつつある中性子星の合体は、金やプラチナなどの重金属のほとんどが生成される場所でもあると考えられており、宇宙における大きな謎、そして研究テーマのひとつになっている。

これまで、こうしたイベントで発生した重力波とガンマ線を同時に観測できたのは1回だけだが、スターバーストは年に10個単位でガンマ線を発見することを目指すとしている。

プエオ

プエオ(PUEO)はシカゴ大学が提案しているミッションで、南極から放球する気球を使って観測機器を上空まで運び、超高エネルギー・ニュートリノを検出することを目的としている。

小柴昌俊氏や梶田隆章氏などのノーベル賞受賞で話題になったニュートリノは、なにものにも邪魔されることなく宇宙を横断し、何十億光年も離れた場所での出来事についての情報を伝えている。とくに、天体活動によって生成され地球まで到達するニュートリノは天体ニュートリノと呼ばれ、その観測や分析は、宇宙のさまざまな天体現象を解明するうえで重要な役割を担っている。

その一方で、これまでの観測から、太陽や超新星爆発のほか、未知の起源から、超高エネルギーの天体ニュートリノがやって来ていることがわかっている。PUEOはこれまでにないほど高い感度で超高エネルギー・ニュートリノを観測できる装置を使い、その謎に迫る。

参考文献

NASA Selects 4 Concepts for Small Missions to Study Universe’s Secrets | NASA
Elisa QuintanaさんはTwitterを使っています 「I am thrilled to announce that our SmallSat mission, Pandora, has been selected for flight via @NASA’s new Astrophysics Pioneers program! (1/10)https://t.co/hxftinOCUL」 / Twitter
Astrophysics Pioneers | Science Mission Directorate