大阪大学(阪大)は、少量の火薬を駆動力とした、ワクチンに最適な火薬を利用した「ガス式無針皮内投与デバイス」を開発し、動物実験で皮内に高効率に遺伝子を高発現させることに成功したと発表。そして、11月25日から大阪大学医学部附属病院で新型コロナウイルス感染症に対する同デバイスを用いたDNAワクチンの医師主導治験を開始したことも合わせて発表された。

同成果は、阪大大学院 医学系研究科の中神啓徳 寄附講座教授(健康発達医学)、同・山下邦彦特任准教授(先進デバイス分子治療学)らの研究チームによるもの。無針投与デバイスの詳細は、米国科学誌「AAPS PharmSciTech.」の2019年12月号に掲載済みだ。

「DNAワクチン」や「RNAワクチン」などの核酸ワクチンは、パンデミック感染症に対する迅速ワクチンとして期待されている。標的とする抗原タンパクの遺伝情報を無害な運び屋ウイルス「ベクター」に入れ、生体内に投与することにより抗原タンパクを体内で発現させ、そのタンパクに対する抗体産生などの免疫反応により疾患予防を目指すというワクチンだ。

これらのワクチンで課題とされていることのひとつが、細胞内に効率よく核酸を送達させることとされている。それを実現できる手段として期待されているのが、投与デバイスやドラッグ・デリバリー・システム(薬物送達システム)だ。これらを用いて、より効果的なワクチンの実現や、その効率的な接種が目指されているところだ。

そうした背景のもとに研究チームが2019年に開発したのが、ガス式無針皮内投与デバイスである。少量の火薬の力を使って、薬液を急速に表皮と真皮の間に薬液を投与するという仕組みだ。

なお、新型コロナウイルス感染症用ワクチンの接種も含め、一般的なワクチンの接種方法は、筋肉内投与あるいは皮下投与で行われている。それに対し、ガス式無針皮内投与デバイスが採用しているのは、表皮と真皮の間に投与する「皮内投与」だ。

皮内投与が選ばれた理由は、皮内には一般的に免疫細胞が多く、ワクチンに対する反応性が高いからだ。この投与方法なら、必要な接種量が5分の1から10分の1程度で済む可能性があるという。また今回のガス式無針皮内投与デバイスは、皮内で遺伝子を高発現させるようにも設計されている。

そしてガス式無針皮内投与デバイスを用いて11月からスタートしたのが、新型コロナウイルス感染症用DNAワクチンの皮内投与での有効性および安全性の評価(治験)だ。20歳以上75歳以下の成人を対象とし、皮内投与を低用量10例および高用量10例として、11月25日から2021年12月まで実施される。

新型コロナウイルス感染症用のワクチン接種が海外では始まっているが、一般的には従来の針のある注射器を用いて筋肉投与もしくは皮下投与が実施されている。しかし、ガス式無針皮内投与デバイスで皮内に正確に投与できれば少量で効率よく免疫を誘導することが期待できる。ひとりの使用量を5分の1から10分の1まで少なくできれば、それだけ多くの人にワクチンを接種させることが実現できる可能性も出てくることが期待される。

  • 大阪大学

    (左)ガス式無針皮内投与デバイスで皮内投与するイメージ。(右)ガス式無針皮内投与デバイスの薬液を投与する先端部の拡大画像 (出所:阪大Webサイト)