はやぶさ2の次なる挑戦の場所は小惑星「1998 KY26」
地球に小惑星「リュウグウ」のサンプルを無事に送り届けることに成功した小惑星探査機「はやぶさ2」。その送り届けたサンプルは、蓋を開けてみると予想以上に量が多く、同位体の分析や有機物の抽出など、さまざまな研究が行われる予定となっている。
一方のはやぶさ2本体はというと、サンプルを届けた後も機体の状態は健全そのものと元気いっぱい。推進剤もまだ半分以上(約55%)残っていることもあり、運用の継続が決定。2020年12月5日に地球圏から離脱するための軌道変更を行い、新たな目的地へと旅立った。
その新たな挑戦の場所として選ばれたのが、小惑星「1998 KY26」だ。はやぶさ2のプロジェクトチームが1万8002個の候補となる小惑星の中から、燃料に余裕を持った状態でも到達でき、10年前後で機体に無理をさせずにランデブーが可能な候補として探した直径わずか30mほどの小さな星である。リュウグウの直径が約900mであるため、1998 KY26がいかに小さいかが窺い知れる。
1998 KY26はリュウグウと同じく、炭素系の物質を主成分とするC型小惑星であり、リュウグウ用に作成されたはやぶさ2の観測装置も活かしやすいと考えられる点も決定の後押しとなったとされる。
1998 KY26の特徴は10.7分という周期で高速に自転していることであり、その速さは大型の小惑星であればバラバラになってしまうほどの速さだという。
プラネタリー・ディフェンスに貢献できる知見の獲得を目指す
この高速自転を行う小さな星を探査することにどのような意義があるのだろうか?それについてJAXAは以下の3点を挙げている。
- 太陽系長期航行技術の進展
- 高速自転小型小惑星探査の実現
- Planetary Defense(プラネタリー・ディフェンス)に資する科学と技術の獲得
1つ目の太陽系長期航行技術の進展だが、地球帰還までのミッションに加え、より遠方への探査を目指す上で必要な運用技術の獲得や、長期航行やフライバイを利用した理学観測を行うことによる長期運航技術を獲得しようというものである。
2つ目の高速自転小型小惑星探査の実現については、世界で初めてとなる直径100m未満の天体の近傍観測を行うことで、強度などの力学的特性や自転の状態、物性の理解を進め、地球史の解明および高速自転環境という特殊な環境へのアプローチによって新たな小惑星探査技術を獲得しようというものである。
そして3つ目のプラネタリー・ディフェンスに資する科学と技術の獲得については、地球に衝突すると甚大な被害を引き起こす微小小惑星の素性を調べ、地球に隕石や小惑星が衝突することを事前に予測し、衝突を防ぐ研究る「プラネタリー・ディフェンス」(スペースガード)に資する科学的な知見の獲得を目指そうというものとなっている。
実は地球上では年に少なくとも数回、隕石の落下が確認されている。日本でも2020年の7月に関東の上空で火球が確認され、千葉県内で隕石として発見されたほか、11月にも関西で火球が確認されており、隕石が落ちてくる、ということを身近な事のように感じた方も多いのではないだろうか。
こうした直径30㎝を超える隕石が地球に衝突する頻度は数百年に一度程度とされているが、そのような微小小惑星の素性はまだよくわかっていない。そのため、今回のはやぶさ2による探査で得られる知見が、将来、微小小惑星が地球に衝突するコースに現れた際にも役に立つと期待されているのである。
今後のはやぶさ2のスケジュールは?
はやぶさ2は今後、今回の拡張ミッションのために策定されたEAEEAと呼ばれるシナリオに従ってイベントをこなしていくこととなる。このEAEEAというのは、軌道計画を表した文字列で、フライバイ/ランデブーの順番を示したもの。Earth→Asteroid(小惑星)→Earth→Earth→Asteroid(小惑星)という形で、スケジュールとしては以下のような流れが考えられている。
- 2021年~2026年7月:巡行運用
- 2026年7月:小惑星(2001 CC21)フライバイ観測
- 2027年12月:地球スイングバイ1
- 2028年6月:地球スイングバイ2
- 2031年7月:目標天体である1998 KY26にランデブー
1998 KY26の到着は今から11年後の2031年を予定している。ただ、その間、なにもしないわけではなく、2026年7月には、やはり形状がよく分かっていない小惑星「2001 CC21」に接近し、フライバイ観測を行うなど、さまざまなミッションを行う予定となっている。はやぶさ2が、人類未踏の地でどのような発見をしてくれるのか、まだまだその活躍からは目が離せそうにない。