宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月15日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関するオンライン記者会見を開催し、再突入カプセル内部のサンプル確認について、最新状況を報告した。これまでにサンプルキャッチャーA室の開封まで進んでおり、目視できる量・サイズのサンプルを確認。予想以上の量が入っており、関係者は喜びを見せた。

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    キャッチャーA室の様子。まさに「大漁」といえる量が入っている。写真では茶色く見えるが、肉眼では黒いとのこと (C)JAXA

今回、津田雄一プロジェクトマネージャは不在だったのだが、ビデオメッセージを寄せており、その中で「明らかにリュウグウで採取された砂が相当量入っていることが確認できた。これではやぶさ2は、サンプルリターンミッションを完全完遂できたことになる」と、プロジェクトを総括。

「計画してから10年以上、打ち上げから6年。私たちが夢にまで見た小惑星の砂、地球外の天体のサンプルが、いま私たちの手元にある」と続け、「私自身もずっと心血を注ぎ、やり遂げた先にこのような大成果があり、感無量。この大きな成果、喜びを皆さんと共有したい」と、快挙を喜んだ。

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    ビデオメッセージを寄せた津田雄一プロジェクトマネージャ

JAXAは、オーストラリアで回収したカプセルを、同月8日に相模原キャンパスに搬入。以降、キュレーションセンターのクリーンルーム内で、サンプルコンテナの開封作業を続けていた。

まずは真空環境において、同月14日、コンテナ内部をスコープカメラで確認したところ、底に黒い粒子が見つかった。これは、キャッチャーの入り口に付着していた粒子が、落下したものと考えられる。構造上、ここでサンプルが見つかることは事前に予想されていたそうだが、その量は想像以上に多かった。

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    分解し、キャッチャーを取り出した後のコンテナの様子。底にサンプルが見える (C)JAXA

これが本当にリュウグウから持ち帰ったものなのかどうか、最終的な決定は、今後の分析結果を待つ必要がある。しかし、空っぽの状態で打ち上げ、リュウグウで密閉し、クリーンルームで開封した容器にこれほどの量が見つかったのだから、状況から考えて、リュウグウ由来と考えてまず間違いない。

そして翌15日には、キャッチャーA室の蓋を開ける作業を行った。このA室は、1回目のタッチダウンで使われた部屋なのだが、中から現れたのはさらに大量のサンプル。重量はまだ計測していないので不明なものの、体積は2ccほどあると見られ、数mmサイズの大きなサンプルまで確認できた。

開封作業を担当し、この“第一発見者”となった澤田弘崇氏(サンプラ主担当)は、蓋を開けて中を見たときに、「言葉を失った」という。「コンテナの底にもあったので、キャッチャーにも入っているだろうと自信は持っていたが、予想を超えて感動するほど入っていた」と、その瞬間の状況を語る。

はやぶさ初号機のときは微粒子で、見るのには顕微鏡が必要だったが、今回は普通に肉眼でも分かるレベル。「数mmサイズのサンプルがどっさり入っていた。ミッションとしての要求値は100mg以上だったが、それは確実に超えているだろう」とコメントした。

澤田氏と一緒に開封作業を行っている橘省吾氏(東京大学大学院 理学系研究科宇宙惑星科学機構 教授)は、「100mgというのは分析に必要な最低量。科学者は欲張りなので、あればいいなと思っていたのはgオーダー。本当に欲しい量が取れた。これくらいあれば、分析でやれることが増える」と喜んだ。

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    澤田弘崇氏(右)と橘省吾氏(左)は、キュレーションセンターから会見に出席

サンプルが大量にあると、どんなメリットがあるのか。臼井寛裕氏(JAXA宇宙科学研究所 地球外物質研究グループ長)は、「溶液化して同位体を分析したり、有機物を抽出したりと、より大量の試料を必要とする分析ができる」とコメント。ただ大きなサイズの粒子は割れやすいため、「なるべく壊さないよう慎重にハンドリングしたい」と述べた。

プロジェクトサイエンティストの渡邊誠一郎氏(名古屋大学大学院 環境学研究科 地球環境科学専攻 教授)は、サンプルを見た第一印象について、「非常に黒い。隕石と比べても少し違う感じがするので、これは本当にいろいろ面白いことが分かるのではないか」とコメント。「惑星科学の新たなステージに突っ込んでいける」と期待を述べた。

また、オーストラリアで採取したコンテナ内のガスも、質量分析の結果、リュウグウ由来であることが分かった。オーストラリアでの採取後、コンテナ内では引き続きガスが発生しており、相模原キャンパスにて再び採取したところ、同じ成分であることも分かったという。地球圏外から、気体状態の物質を持ち帰るのは、これが世界で初めて。

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    ガス分析の結果。この3点の根拠から、リュウグウ由来であると判断した (C)JAXA

まだ質量分析のみのため、このガスが有機物や水に由来するものかどうかについては、今後の分析結果を待つ必要がある。橘氏は「このような揮発性ガスは、惑星が誕生する場所に豊富に存在することが分かっている。我々が歳をとることはないが、初期の太陽系まで連れて行ってくれる」と、“玉手箱の煙”に喩えてコメントした。

なお、今回開封したのはまだA室のみで、キャッチャーにはB室とC室が残っている。このうちC室は、2回目のタッチダウンで使用しており、この中には、風化前の地下物質も入っていることが期待される。一方B室はタッチダウンでは使っていないものの、降下リハーサル中に捕獲した微粒子が入っている可能性もある。

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    キャッチャーには合計3部屋がある。何が入っているのか、非常に楽しみなところ (C)JAXA

これらの中身も楽しみなところだが、しばらくはA室からのサンプル取り出し作業に時間を要するため、開封するのは年明け以降になる予定とのこと。2021年も、はやぶさ2の成果発表は続くと見られ、今後の続報を期待して待ちたいところだ。