東京大学 生産技術研究所(東大生研)は12月1日、水に曝露すると劣化してしまう有機薄膜トランジスタの構成部材にあえて水を用いた化学センサを開発し、水中に存在する人体や環境への影響が示唆されている除草剤「グリホサート」を選択的かつ高感度に検出することに成功したと発表した。

同成果は、東大 生産技術研究所の南豪 准教授、同・佐々木由比 日本学術振興会特別研究員(PD)、同・浅野康一郎 大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、「Chemsity A European Journal」に掲載された。

有機薄膜トランジスタはドレイン、ソース、ゲートの3種類の電極から構成され、活性層に有機半導体材料が用いられた電子デバイスだ。ゲート、ソース間に電圧を印可することで有機半導体層に電子ないし正孔のキャリアを注入し、電界制御によってドレイン、ソース間の電流のON/OFF切り替えを可能としている。

スイッチング特性を有する有機薄膜トランジスタに分子認識部位を適切に導入することで、目的とする分子の捕捉に伴い、ドレイン電流および閾値電圧が変化するという特徴を持つ。それにより、有機薄膜トランジスタは分子認識情報を定量的に読み出すことができる電子デバイス型センサプラットフォームになり得るとされている。

従来の大型の分析装置を用いる分析手法と比較し、有機薄膜トランジスタセンサは小型かつ簡便に使用できるため、実用的側面から高い汎用性が期待されるという。センサの使用用途に関しては、環境分析や生理条件下での分析が主目的となることから、水中で機能するセンサの開発が望まれている。しかし、有機薄膜トランジスタは水に曝露されると劣化するという弱点があった。

ところが、その苦手とする水をあえて構成部材として使用している、水ゲート型有機薄膜トランジスタが存在する。水ゲート型有機薄膜トランジスタは、半導体/水溶液界面に生じる電気二重層がキャパシタとして機能することから、0.5V以下という低電圧でのデバイス駆動が可能になるという特徴を持つ。あえて苦手な水を活用することで、優れた性能を手に入れたのだ。

研究チームは今回、その水ゲート型有機薄膜トランジスタに着目し、水中で使用可能な化学センサとして開発することにしたという。そして検出目標は、欧米の農業分野で広く普及している除草剤であるグリホサートだ。同除草剤は2015年に国際がん研究機構から発がん性の疑いがある物質として認定されており、同除草剤を検出できる水中センサの開発は重要である。

今回のセンサ設計ではサイドゲート構造が選定され、高分子半導体を用いたドロップキャスト法による簡便なセンサ作製が目指された。グリホサートの検出機構では、側鎖に分子認識部位を導入したポリチオフェン誘導体が採用され、銅(II)イオンを組み合わせ、競合応答による同除草剤を検出する仕組みとされた。

  • 有機半導体

    作製された有機薄膜トランジスタ型センサの模式図および写真。そして、検出機構のイメージ図 (出所:東大生研Webサイト)

半導体/水溶液界面においてポリチオフェン誘導体-銅イオン複合体が形成されたあとに、水溶液中にグリホサートを添加すると、結合能の違いによって銅イオンはポリチオフェン側鎖から引き抜かれる。この引き抜きによる界面における電荷の変化を、トランジスタ特性の変化として鋭敏に読み出すことが可能だ。さらにπ(パイ)共役系高分子を用いることで、分子ワイヤー効果による高感度検出も期待できるという。

この検出機構を用いて、水中におけるグリホサートの検出が試みられた。すると、グリホサートの濃度増加に伴い、センサのドレイン電流値の減少が確認され、その検出感度は0.26ppmと算出された。

研究チームが注目すべき点としたのが、銅イオンが非存在下の条件ではグリホサートを添加してもトランジスタ特性はまったく変化せず、センサの応答は競合応答に基づきグリホサートの検出を達成したことを示唆しているという点だという。

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    (左)作製された有機薄膜トランジスタにグリホサートを添加した際の伝達特性変化。(右)銅イオン共存下と非共存下におけるグリホサート滴定曲線の比較 (出所:東大生研Webサイト)

さらに、同一のポリチオフェン誘導体を用いた蛍光センサでは、グリホサートに対する検出感度は0.95ppmと算出され、水ゲート型有機薄膜トランジスタ型センサの有用性が明らかとなった。

最後にほかのアニオン(負に荷電したイオン)種に対する選択性の調査も行われ、グリホサートに対する強い応答が確認された。この応答は、銅イオンに対するグリホサートの多点的な配位が起因したものと考察されるとしている。

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    作製された有機トランジスタ型センサにおけるアニオン選択性調査の結果 (出所:東大生研Webサイト)

今回のセンサシステムの確立は、環境分析のみならず、食品分析や薬理学分野といった多岐領域で利用されるセンシングデバイスの開発に繋がることが期待されるとしている。

また今後のさらなる展開として研究チームは現在、水ゲート型有機薄膜トランジスタとマイクロ流路デバイス一体型センサを構築し、リアルタイムモニタリング検出を目指したセンサの開発に取り組んでいるとしている。