宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月15日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関するオンライン記者説明会を開催し、地球帰還後に実施する拡張ミッションの選定結果を公表した。はやぶさ2の新たな目的地として決まったのは、直径わずか30m程度と推測される小惑星「1998 KY26」。到着は今から11年後、2031年7月となる予定だ。
0.71と0.77、小さな違いが大きな差に
はやぶさ2の再突入カプセルは、12月6日に地球に帰還する予定。これで、はやぶさ2の当初のミッションは完了となるが、探査機の状態は健全で、推進剤もまだ半分以上(約55%)残っているため、運用を継続することができる。この拡張ミッションでどこに向かうか。JAXAはこれまで、2つの案まで絞り、検討を進めてきた。
「EVEEA」シナリオは、金星をフライバイ観測してから小惑星「2001 AV43」に向かう計画、一方「EAEEA」シナリオは、小惑星「2001 CC21」をフライバイ観測してから小惑星1998 KY26に向かう計画だった。どちらも、高速自転する小さな小惑星を目的地としており、途中で他の天体を観測するチャンスがある。
ちなみにEVEEA/EAEEAというのは、軌道計画を表した文字列だ。似ているのでちょっと紛らわしいが、フライバイ/ランデブーの順番を示しているので、探査機の経路が分かりやすい。これを見ると、どちらも途中で地球スイングバイを2回実施。2文字目のみ、金星(Venus)か小惑星(Asteroid)かで違うというわけだ。
- EVEEA: Earth→Venus→Earth→Earth→Asteroid
- EAEEA: Earth→Asteroid→Earth→Earth→Asteroid
今回の選定において、結果に大きく影響したのが太陽との距離である。EVEEAは金星軌道まで降りていくため、太陽には0.71auまで接近。このとき、探査機の各搭載機器の温度がどこまで上がるか検討したところ、許容範囲を超えてしまうことが分かった。一方、EAEEAは0.77auとやや遠いため、範囲の逸脱は無かった。
探査機は元々、地球-リュウグウ間の主ミッションのみを目的として設計されており、太陽距離は0.85~1.41auを想定していた。両シナリオともこれを大きく超えた範囲での運用となるわけだが、イオンエンジンも高温の影響を受け、3台運転は想定の0.85auまでしか行えない。これより近くなると制約が生じてしまう。
EVEEAの場合、金星スイングバイ前後の140日間程度、イオンエンジンを使うことができない。EAEEAも小惑星フライバイ前後でイオンエンジンが使えなくなるものの、期間は100日間程度と、多少短い。
そしてEVEEAで特に大きく懸念されたのが、シナリオ成立性だった。EVEEAで目的地に到達するためには、金星スイングバイの成功が不可欠。最も熱的に厳しいハイリスク環境において、最もクリティカルな運用を実施する必要があるわけだ。一方、EAEEAの方は、小惑星フライバイはキャンセルしても、目的地には到着できる。
これらの評価をまとめたのが下の図だ。熱成立性、イオンエンジン運転条件、シナリオ成立性の3項目とも、EAEEAの方が上回った。探査機の熱環境も寿命も、これから先は想定外のチャレンジとなる。そういう意味でもともとリスクは高いものの、その中でもリスクを低減し、実現性を少しでも高くしようとした結果と言えるだろう。