1998 KY26はどんな小惑星?
拡張ミッションでの目的地に決まった小惑星1998 KY26については、まだあまり詳しく分かっていない。ただ、この小惑星は地球に接近した際に発見され、そのときのレーダー観測により、小さい小惑星のわりに、大体の形状まで分かっている。大きさは直径30±10m。これほど小さな天体へのランデブーは、実現すれば世界初となる可能性がある。
特徴は、10.7分という周期で高速に自転していること。30mの物体が10分で1回転というと、地上では「高速」というイメージではないものの、宇宙ではこれでも、遠心力の方が重力を上回り、「地表に立っていられない」という奇妙な世界になる。このような天体がどうなっているのか、非常に興味深い。
砂は地表にとどまれないため、基本的には1枚岩の可能性が高いだろうが、砂が結合して固まっている可能性もある。もしランデブーしてこれが分かれば、プラネタリー・ディフェンス(スペースガード)にも大きく貢献するという。
1枚岩であれば、地球大気圏へ突入した際の高熱にも耐え、地表まで届いてしまう可能性が高くなるし、砂であればバラバラになって燃え尽きやすい。この数10mクラスの小惑星は、100年~200年に1回程度の頻度で地球に落下することが分かっている。もし将来、衝突コースにいる小惑星を見つけた場合にも、この知見は役立つだろう。
また拡張ミッションでの科学観測について、プロジェクトサイエンティストの渡邊誠一郎氏(名古屋大学大学院環境学研究科 教授)は、「ラグビーのワールドカップで2回トライを決めた選手が、引退後にフィギュアスケートに転向してオリンピックを目指すようなもの」と説明する。はやぶさ2はリュウグウの観測に特化した設計になっており、他の小惑星向けには最適化されていないのだ。
ただ、1998 KY26はリュウグウと同じC型小惑星の可能性があると見られており、その点では、はやぶさ2の観測装置を活かしやすいといえる。1998 KY26は、リュウグウの30分の1という小ささ。渡邊氏は「サイズが違う天体にどういう特徴があるのか確認したい」と、リュウグウとの比較に期待する。
しかし気になるのは、到着がさらに11年後ということだ。宇宙空間では、強い放射線などにより、センサーの劣化が進む。これについて、吉川真ミッションマネージャは「現状ではそれほど大きな劣化はない。10年後でもデータは取れると思う」と見通しを述べる。これは耐久試験としても意味があり、劣化のデータそのものも貴重な知見となりそうだ。
はやぶさ2は、2027年12月と2028年6月に、地球スイングバイを実施する。センサーについては、このとき月を観測することで、較正を行う予定だ。この時点までしっかり使えていれば、ランデブー時の科学観測がかなり期待できるのではないだろうか。かなり先の話になるが、(覚えていれば)注目したい。