高エネルギー加速器研究機構(KEK)は9月7日、KEKの放射光実験施設「フォトンファクトリーアドバンストリング(PF-AR)」において、ジルコニア(ZrO2)鉱物である「バッデレイアイト」について衝撃実験を実施し、衝撃を受けている最中に起きる結晶構造の変化をナノ秒単位の時間スケールで直接観測することに成功したと発表した。
同成果は、KEK物質構造科学研究所の髙木壮大 研究員、一柳光平 研究員、野澤俊介 准教授、深谷亮 特任助教、船守展正 教授、足立伸一 教授、筑波大学生命環境系の興野純 准教授、熊本大学の川合伸明 准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米地球物理学連合の発行する科学雑誌「Geophysical Research Letters」9月16日号に掲載されるのに先立ち、8月31日にオンライン版に掲載された。
隕石が落下すると、その衝撃により周辺の鉱物の結晶構造が変化する。そうした隕石衝突の履歴を調べるのに適した鉱物のひとつに、装飾品にも用いられるバッデレイアイトがある。天然に算出するジルコニアで、常温常圧では単斜晶相の結晶構造を持ち、化学組成はZrO2という鉱物だ。存在量自体は多くはないものの、地球表層から隕石中まで幅広い岩石中に見られるのが特徴である。
これまでの研究から、カナダの隕石衝突クレーターなどで、隕石衝突の衝撃により、結晶構造の変化したバッデレイアイトが発見されている。一般的なバッデレイアイトと同じ結晶構造ではあるが、ある特定の方向を向いて並んでいるのが特徴だ。これは、衝撃を受けた瞬間だけ別の結晶構造に変化し、衝撃が解放されて元の結晶構造に戻るときに形成されたものと考えられるという。しかし実際に衝撃を受けている瞬間にどのように結晶構造が変化するのかは、実験室においても直接観察されたことはなかった。
そこで共同研究チームは今回、KEKのPF-ARに構築した「衝撃下その場X線回折測定システム」を用いて、衝撃を受けている瞬間にバッデレイアイトの結晶構造がどのように変化するのか、詳細な観察を試みることにした。衝撃下その場X線回折測定システムは、高強度レーザーを照射することで衝撃波を物質に与え、その衝撃波が物質中を伝播している瞬間の結晶構造の変化を、高輝度X線パルスによるX線画像(特に結晶構造がわかる回折像)によって観察できるという実験システムだ。
その結果、衝撃圧縮により、高圧下で安定する構造に一時的に変化するが、衝撃波が通過して圧縮から解放される過程で元のバッデレイアイトの結晶構造に戻っていくという様子がX線画像として確認されたという。また、その結晶構造の変化が起きる圧力境界も3.3GPa(3.3万気圧)という高い圧力であることが確かめられたとする。
共同研究チームによれば、結晶構造スケールでの変化は、衝撃による鉱物全体の変形に反映されるため、今回の研究成果のように結晶構造の変化過程を理解することは、全体の変形・破壊現象を理解するという点からとても重要なことだという。また今回の研究でバッデレイアイトがどれくらいの衝撃でどのように変形するのかが解明されたことから、隕石中や天体表層にあるバッデレイアイトを分析することで、太陽系天体の形成、進化過程を正確にひも解いていく研究に貢献することが期待されるとしている。