睡眠の問題

  • 宇宙生活/地上生活に共通する課題テーマ・解決策の募集

    2010年の宇宙飛行中の山崎直子さん(C)NASA

そして、宇宙でも地上でも極地でも、人が暮らすときに永遠のテーマとなるのが「良質な睡眠」。宇宙飛行士はある意味、シフトワーカーでもある。ISSの宇宙飛行士たちは協定世界時に合わせて生活しているが、打ち上げや帰還の時間に合わせて、睡眠時間を徐々にずらしていくこともあるという。山崎さんは「無重力の方が寝る時間が短くてすみ、起きたらすっきりしていたし、寝袋で浮かびながら寝るのは快適だった」と言うが、睡眠導入剤を使う宇宙飛行士もいると聞く。

睡眠がとりにくい点では国際線の飛行機も同様かもしれない。「光を徐々に明るくして寝起がすっきりしたと感じてもらうようにしています。また食事も時間を調整するための重要な要素です」(江島さん)

向井さんによると、ヒトの体内時計のサイクルは25時間だという。それを朝の光でリセットしているため地上で睡眠不足を感じるのは当たり前であり、週末に寝だめができるのだと。寒かったり音がしたり、様々な環境に影響されるから睡眠は奥深いテーマである。

帰還後に気付いたこと

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旅先から帰ると、今まで普通だと思っていた日常生活の有難さや、旅先との違いに改めて気付いたりするのも面白い点だ。

極地建築家の村上さんは「日本に帰ってきて音に対して敏感になった」という。「南極では見渡す限り雪で覆われた真っ白な空間で変化がないため、微かな音で変化を読み取る。音に対してあげていた感度を日本に戻ってから下げられない。だからスーパーに行くとコーナーによって違う音があふれていて音酔いしてしまう。人が多い集団にも慣れていないから満員電車で降りることもできませんでした」

ANAの江島さんは「薄暗い機内に慣れているので外に出るとまず太陽の光を眩しく感じる。香りを感じたり味を感じたり。なんとなく好きでなかったものの美味しく感じられます」機内で閉じていた感覚が開いていくのだろう。

向井さんは「重力に魅惑された」そうだ。「宇宙から帰還後、身体がすごく重く感じました。月が昇る、陽が沈む。知らない間に重力の世界で生きていて、言葉にもそれが表れている。この世界ってすごく特殊だなと感じました」

宇宙は特殊な場所ではない

向井さんが繰り返し訴えたのは「宇宙は特殊な場所ではない」ということ。「日本の皆さんは未だに1960年代の宇宙飛行士が宇宙に行ったときの感覚をもっている。今、宇宙船の中が地上と違うのは無重力状態であることぐらいで、それも人工重力を発生させれば解消されます。『宇宙では買い物に行けない』とかネガティブな方向に考えないで、宇宙でないとできない体験に目を向けて欲しい」。

さらに「ロケットや人工衛星は自分たちには関係ないし、お金がかかるからと参入しない企業が多いかもしれないけれど、食事や下着や生活用品はちょっとした投資額でも、もしかしたら面白いものができて地球上でも使えて宣伝になります」と宇宙へのチャレンジを呼び掛ける。

山崎直子さんは2018年から一般社団法人スペースポートジャパンの代表理事を務める。早ければ2020年代に日本から宇宙旅行を、2030年代以降には2地点間輸送を目指す。「宇宙生活のQOL向上は、日本から飛び立つ宇宙旅行にも活用されることを目指しています。宇宙は特殊だと思われがちですが、宇宙に対応する技術が地上でも生かされることが求められている。食も洋服も医療も極地を考えることで、その技術が地上にも生かされる。いい循環ができるといいと願っています」

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    「宇宙に対応する技術が地上でも生かされることが求められている」と語る山崎直子さん

ISSに搭載する生活用品の締め切りは9月4日だが、JAXA新事業促進部・J-SPARCプロデューサーの菊池優太さんは今後も日本人宇宙飛行士が打ち上げられるたびに、同様の公募を行っていきたいとしている。