2020年前半は新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう中、世界各国・地域の半導体工場のほとんどは、各国・地域の行政府から必要不可欠な業務(Essential Work)と認定されることで業務を継続できたものの、現場の作業員の確保が難しかったり、それにともなう稼働率の低下、海外装置メーカーの立ち上げ要員が入国できない(もしくは出国が認められない)など、さまざまな課題が浮き彫りとなった。

国際半導体製造装置材料協会(SEMI)は、こうした経験を踏まえ、ファクトリオートメーションの理論的基盤をSEMI Standards(SEMIが設定する標準規格)という形で半導体業界に提供することを目的に、新たなスタンダードを数か月以内に所定の手続きを経てリリースする準備を進めていると、SEMIの国際規格シニアディレクターであるJames Amano氏がSEMICON West 2020の記者会見にて発表した。

  • James Amano

    オンライン越しに取り組みについて発表するSEMIのJames Amano氏

Amano氏によれば、半導体製造ツールをリモートで診断および管理するために使用されるソフトウェアのサプライヤは、2020年2月~4月の間、その使用率が従来の2倍以上に高まり、5月および6月に至っては、過去最高の使用率を記録したという。多くの技術者がスタンダードによって確立された基盤の下で、重要な診断と制御を自宅で行ったためだという。

  • SEMICON West 2020

    製造装置メーカーの技術者が自宅から他国の半導体工場の装置の診断を行い遠隔制御を実施するイメージ (出所:SEMICON West 2020におけるAmano氏の発表スライド)

さらに、複数の分野で標準化されたAR技術を日常的なツールとして活用を進めたことで、多くの技術者が現場の作業員をリモートでトレーニングすることが可能にもなってきたという。こうした動きを踏まえたFacebook CEOのMark Zuckerberg氏は、5月にAR/VRの活用により、在宅勤務者の割合が今後10年間で劇的に増加するとのコメントを出すなど、業界問わずに注目を集めている。

特にASMLのように、露光装置そのものは出荷できても、その設置・稼働などを担当する技術者が出国(あるいは出荷先の国への入国)できない状況に陥った企業では、こうした遠隔指示システムがうまく機能したと同氏は実例として挙げている。また同氏は、「SEMIと5000人を超すスタンダード開発のボランティアで構成される委員会のおかげで、異なるプラットフォーム間、異なるリモート接続ソリューションといった制約や、付随する偶発的なサイバーセキュリティの脅威も避けることができた」と、安全に利用できたことも付け加えている。

半導体デバイスメーカー側も、クリーンルーム内で働く人数を減らせるため、こうした技術を歓迎しているという。SEMIによれば、特に半導体レシピの変更が数か月ごとに発生する可能性がある最先端ファブでは、人々がウェハに近づく頻度を最小限に抑えたいという考えを示す半導体メーカーが多いという。

Amano氏によると、新型コロナウイルスの感染拡大の最中において浮上した課題の1つは、ますます包括的なサイバーセキュリティ仕様を備えたスタンダードの開発を加速させる必要があることだという。こうした課題も踏まえ、今後、新たな感染症による世界的な流行爆発が発生しても止まることのない半導体製造の実現に向け、2つの新たなスタンダードのドラフト作成作業が進められているとする。

米IntelとCimetrixは、SEMIドラフトドキュメント6566「マルウェアのない機器統合の仕様」の作成に指導的な立場として参画し、機器の出荷前スキャンのプロトコルとファイル転送、メンテナンスパッチ、コンポーネントの交換などのさまざまなタイプの継続的なサポートの定義を進めている。この策定チームの目的は、機器のソフトウェアを強固なものとし、サイバー攻撃に対する脆弱性を低減するためのステップを導入するのに望ましいスタンダードを構築することになるという。そのため、National Vulnerability Database(NVD)やCommon Vulnerability Scoring System(CVSS)などのサードパーティのフレームワークによる脆弱性評価も受ける予定だという。

もう1つはTSMCと台湾産業技術研究所(ITRI)が主導的な役割を果たしている、SEMIドラフトドキュメント6506「半導体ファブ機器のサイバーセキュリティ」である。こちらはファブ内に設置されている機器の一般的な最低限のセキュリティ要件を定義したもので、ここではファブ機器の4つの主要コンポーネント(オペレーティングシステム、ネットワークセキュリティ、エンドポイント保護、およびセキュリティモニタリング)に焦点を当てて策定作業が進められているという。また、マルウェアの脅威が進化するにつれてセキュリティ要件も拡大させていく予定だとしている。