3つの領域に研究資源を集中させるパナソニック
パナソニックは7月15日、「Society 5.0」に代表される超スマート社会の到来に向けた企業変革の一環として、自社の研究開発部門がどのような考えの元、より良いくらしの実現や社会課題の解決に向けた技術開発や新規事業創出に向けた取り組みを行っているのかについての説明会を開催。単なる製造業からデジタル時代への変化に対応できるソフトウェアオリエンテッドな企業に向かうための考え方などを示した。
2020年7月時点の同社の研究開発体制はイノベーションの推進を念頭にしたものとなっており、同社 専務執行役員兼CTO兼CMO(チーフ・マニュファクチャリング・オフィサー)の宮部義幸氏の下、「テクノロジー本部」、「マニュファクチャリングイノベーション本部」、「デザイン本部」、「イノベーション戦略室」、「くらし基盤技術センター」、「エネルギー事業開発室」に分かれ、かつ各カンパニーの技術本部と密接な連携をとる形となっている。
そのターゲットとするのは、「モビリティ」「ホーム」「ビジネス」の3つの領域であり、それらに対し、キーデバイス技術やモノを作り上げる技術、エネルギー関連技術をベースとしたAI/IoT/ビッグデータ、センシング、ロボティクスなどのハードウェア、そしてデジタライゼーション、ネットワークといったクラウド関連技術を組み合わせることで、「くらしと世界のアップデート」を目指すとしている。
また、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の中、社会の在り方そのものに大きな変化が求められるようになってきており、そうした環境に適応するためのニーズに向け、新たなチャンスが生まれてくるとの見方を示す。
単なるものづくりからソリューションづくりへ
例えばモビリティ分野では自動運転に向けた各種コンポーネントや、電気自動車(EV)の走行距離向上に向けたエネルギーマネジメントなどが求められるし、工場や店舗の無人化などにはロボット技術が求められる。各分野のエッジ領域のシステムとして考えれば、それだけだが、その先には、そこで生み出されたデータを分析し、さらなる効率化やより快適な生活などを提供するためのクラウドの活用も含まれてくる。
実際のクラウドサーバなどはAWSやGoogleクラウドなどを活用することになるが、そこに同社は生み出されたデータの収集・分析などを行う情報基盤となる「パナソニックデジタルプラットフォーム」を構築済みとするほか、工場におけるIT化などを背景としたIoTセキュリティシステム、無線環境が構築しにくいところでも電力線で高速通信を可能とするIoT PLC(かつてのHD-PLC。2019年にIEEE 1901aとしての標準化名がIoT PLC)などの通信技術やセキュリティ技術といったデジタル化に必要な基盤技術が揃っていることを強調する。
また、スマートフォンを例に挙げるまでもなく、ソリューションとして考えた場合、その価値はハードウェアではなくソフトウェアが握ることも多い。同社はこれまで、よりよいハードウェアを開発することで、価値を提供してきたが、ソリューションとしての価値を考えた場合、「ソフトウェアオリエンテッドなハードウェア開発に変化していかないといけない」(同社の宮部CTO)ということで、ハードウェアとして価値を提供することに加えて、ネットワークにつながることで生み出されるクラウド/ソフトウェアとしての価値の2つの方向を志向していく必要があるとする。
こうした基盤技術はハードウェアとソフトウェアを組み合わせたソリューションを構築し、そのうえで価値を提供するという意味では、ブラックボックスを作らないという点でも重要になる。
重要となるさまざまな技術を組み合わせて事業化する力
研究開発部門としても、コンポーネントより上のシステムとしてのレイヤにおいて、ソフトウェアによって価値を高める体制を構築しているとする一方、中長期的には事業としての成長のためにはコンポーネント(ハードウェア)も強い必要があり、テクノロジー本部にそうした将来的に強いコンポーネントとなる技術開発とともに、それらを使って新たな事業を開発し、自ら推進する部隊を持つ組織を有するなど、ハード/ソフト一体化させた価値の創出を目指す環境ができつつあるとのことで、そうした取り組みの成果として、画像データを収集・解析してさまざまな社会課題の解決が可能なIoTソリューション「Vieurekaプラットフォーム」や、2020年7月より提供を開始するVieurekaを活用することで介護施設での夜間巡視の負担軽減などを可能とする介護業務支援サービス「ライフレンズ」などがすでに形となってでてきたほか、名古屋大学と共同でAIを活用して個々の患者ごとに最適な歩行訓練を提供する歩行訓練ロボットといったものも商品化目前まで到達しているという。
また、こうしたエッジデバイスのハイパフォーマンスのコンピューティング処理、低消費電力化によるバッテリ寿命の延長、物体認識のためのイメージセンサやレーダー技術などを実現するのは半導体だが、同社は半導体事業を売却することを決定している。一方で、要素技術を具現化する手段としての半導体は重要視しているとのことで、製造設備は保有しなくなるものの、次世代のセンサデバイスを中心に、それを実現するための要素技術については注力する分野を見定めて今後も行っていくとしており、要素技術から、収集されたデータの処理、活用、それをシステムとしていかにインテグレーションしていく力などを融合していくことで、技術ビジョンとして掲げる「くらしと世界のアップデート」に向けた社会に役立つソリューションの提供につなげていきたいとしている。
なお、宮部氏は掲げているビジョンの実現には以下の3つの力を持つ必要があるとしており、それらは過去から引き継いできたものと、デジタルトランスフォーメーション(DX)の時代に求められる能力を融合したものとなっている。
- 昔から技術部門が持つべき、強い差別化技術を生み出す力
- Society 5.0の時代に向け、ビジネスモデルを変革し、新事業を創る力
- さまざまな力を持った組織が柔軟に力を合わせて事業を進められるクロスバリューイノベーション力