旧世代の技術が生き残る日本のAGV/AGF市場

「日本は無人搬送車(AGV)や無人搬送フォークリフト(AGF)の新技術採用が遅れている」。そう語るのは、AGVナビソフトを手掛けるフィンランドNavitec Systemのアジア総代理店を務めるリンクス代表取締役の村上慶氏だ。

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    AGV/AGFの自動運転技術を世代別に分けると大きく第1~第4に分けられる。左の人物がリンクスの代表取締役である村上慶氏

同氏によれば、AGV/AGFには磁気テープを活用する第1世代、QRコードを活用する第2世代、反射板を活用する第3世代、そして2D SLAMを活用することでどんな場所でも走行できるようにする「Natural Future Navigation(NFN)」をベースとする第4世代の大きく4つの世代に分けられるという(3D SLAMを活用する第5世代に向けた開発も進められている)。しかし、日本の工場などでは第1世代のAGVが活用されており、その稼働率は90%。第2世代~第4世代は10%ほどしかないと見積もられている。一方、欧米では、近年、一気に第2世代以降への世代移行が進んでおり、その比率は50%に達しているという。

物流の変化に合わせて世界中で第4世代への移行が加速

欧米での第2世代以降の新世代への移行を後押ししたのは物流市場の活性化。これまでのAGVの活用の中心は自動車製造をはじめとするFA市場であったが、オンラインショッピングの活況などを背景に猛烈な勢いで物流市場におけるAGV/AGF活用に注目が集まるようになっており、NFNのアルゴリズムを手掛けるNavitecも「ゴールドラッシュ。屋根を突き抜ける勢いで成長している」というほどだという。

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    第1、第3世代、そして有人操作のフォークリフトは第4世代に将来移っていくと同社では予測している

すでに世界中の有力AGFメーカーは何らかの形でNFNを活用するために技術を有する企業とパートナーシップを締結して製品化を進めており、Navitecも欧米のトップクラスのAGFメーカー複数社に技術を提供しているという。「日本でも大手フォークリフトメーカーが興味を示しており、近いうちに地殻変動が起こりそうな感触がある」(村上氏)とのことで、日本でも物流分野でのAGV/AGF活用が進みそうな手ごたえを最近感じるようになってきたという。

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    フラットビークルと呼ばれる対応のリンクスのデモ用AGV。オムニホイールを採用しているので、全方向への自由自在の移動が可能

もともと同社は2019年11月の時点ではAGV/AGFを武器に製造業分野などに進出したいSIerを中心に技術パートナーシップを活用して市場を拡大していこうとしていたが、新型コロナウイルスの影響などもあり、物流分野での人手不足などもあり、日本でも一気に事情が変わってきたとする。「日本もAGV/AGFメーカーが率先して次世代に向けた取り組みを進めようという感じに変わってきた」と村上氏も手ごたえを語る。

NFNはなにがすごいのか?

2D SLAMを活用するNFN技術の最大のメリットはSIerに頼らなくても2Dマップを生成し、AGV/AGFが自己の位置を自動的に把握し、それをもとに移動経路などを設定することが可能な点にある。

Navitecもナビゲーションソフトウェア「Navitrol」ならびに、フリートコントロールソフトウェア「Navithor」の提供を行っているが、独自アルゴリズムを採用するNavitrolを活用することで、NFNによる誘導のみで停止位置精度±1cmを実現できるほか、ダイナミックマッピング機能を活用することで、壁が20%しか見えていない状況であっても、自己位置の推定することも可能だという。

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  • 2D SLAMを活用して周辺地形データをもとにマップデータを作成。それを踏まえ、移動経路などを記入してやることで、誰でも手軽に経路設定ができる

NFNによる誘導のみで停止位置精度±1cmを実現するフラットビークル

一方のNavithorはさまざまなAGVをまとめて管理することができるソフトで、例えばトルコの家電メーカーでは42台のAGVの一括制御を可能としており、交差点などであっても、複数のAGVが協調してぶつからないように行き交うことも可能としている。

経路上にある障害物を自動で検知し、それを自己の判断のもと、避けて元の経路に戻るフラットビークル

また、AudiでもNavitecの技術を搭載したAGVが活用されており、Audi R8の製造では、ライン生産ではなく、車体をAGVの上に乗せることで、必要な工程に自動的に移動することで、無数にあるカスタマイズに柔軟に対応するレイアウトフリー製造を実現しているという。

なお、同社では国内市場について、2027年には約10億円の売り上げを目指すとしており、活況の様相を見せつつある物流市場のみならず、人手不足に悩むさまざまな産業分野での活用に向けた取り組みを進めていきたいとしている。