半導体市場動向調査会社の米IC Insigtsは、半導体生産能力がそれぞれの国・地域別でどの程度であるのかの調査結果を発表した。
ここで語られる当該国・地域の半導体生産能力とは、本社の所在国ではなく、実際に、その国・地域に存在するファブの生産能力を示すもので、例えばSamsung Electronicsが米テキサス州オースチンに保有するファブの生産能力は米国分として集計されている。
2019年12月時点で、世界の半導体生産能力は1951万枚/月(200mmウェハ換算)である。もっとも半導体生産能力が高い国・地域はTSMC擁する台湾で、全世界の生産能力の約22%を占めている。2位は、シェア20.6%の韓国で、台湾は、2011年に日本を追い抜いた後、2015年に韓国を抜いて世界一を維持してきた。3位はシェア16%で日本。4位はシェア14%の中国で、2010年に初めてヨーロッパを抜き、2016年にROW(Rest of the World:その他の国々)を抜き、そして2019年には北米を抜くなど、破竹の勢いで生産能力を伸ばしている。
5位は中国に抜かれた北米で6位が欧州となっている。また、ROW(その他の国々)は、主にシンガポール、イスラエル、マレーシアであるが、ロシア、ベラルーシ、オーストラリアなどの国々も含まれる。
台湾は、今後も当分の間、トップポジションを維持するとIC Insightsは予測している。また、2020年には、中国が生産能力で日本を上回り、2022年には、韓国を追い抜き、2位に上ってくると同社は予測している。中国は、2019年から2024年までの5年間、生産能力の年平均成長率がもっとも高くなることが予測されている。現在、建設が進められている大規模な中国政府主導によるDRAMおよびNANDファブの量産稼働に向けた期待はやや抑えられるものとなっているが、今後数年間で海外メモリメーカー(Samsungの西安工場やSK Hynixの無錫工場、Intelの大連工場)やメモリ以外のデバイスの生産能力が大きく増加する見込みであるという。
一方、北米の生産能力シェアは2024年までに減少すると予測されており、この間、米国の大手ファブレスIC企業などは、主に台湾を拠点とするファウンドリに生産委託を行う見通して、欧州も同様の流れで生産能力シェアはやはり減少を続けるとIC Insghtsは予想している。
米中が半導体生産能力増強でも火花
IC Insightsの見通しは、2019年12月時点の半導体生産能力に基づくが、2020年6月、米中それぞれの今後の半導体生産能力に影響を与えそうな発表が続々と報じられている。
生産能力で中国に負けた米国は、半導体工場建設に補助金を出し税制優遇する半導体製造強化法案(CHIPS for America)を上下院に6月10および11日に提出しており、TSMCの先端ファブのアリゾナ州への誘致に成功している。米国政府は、Intelをはじめとする米国内に工場を持つ半導体メーカーにも新たなファブを米国内に建設するよう要請しておりGlobalFoundriesは、ニューヨーク州にある同社のFab 8の隣接地66エーカ(約27万m2)を、Fab 8の拡張を前提に同州エネルギー研究開発局(NYSERDA)から購入する交渉を始めた。同時に、Fab 8がU.S. International Traffic in Arms Regulations(米国国際武器輸出規則:ITAR)およびExport Administration Regulations(輸出管理規則:EAR)登録半導体製造工場としての手続きをおこない、米国国防総省や防衛業界からの製造委託を受けられる「Trusted Foundry(国防上信頼されるファウンドリ)」を目指し、製造品目を増やすとしている。
一方、中国の3D NANDフラッシュメモリメーカーYMTCは、6月20日に第2期工事に着工しており、最終的に生産能力を月産30万枚(300mmウェハ)まで増やす計画である。このほか、中国各地で半導体工場の建設が進められており、今後、半導体生産能力でも米中が火花を散らす状況が展開しそうである。