米国半導体工業会(SIA)の連邦議会議員へのロビー活動が奏功し、米国の半導体研究開発や製造を強化するための「CHIPS for America法」の上下両院への提出にこぎつけたが、このたびSIAは、その法案作成の元になった調査レポートを公開した。

レポートのタイトルは「SPARKING INNOVATION - How Federal Investment in Semiconductor R&D Spurs U.S. Economic Growth and Job Creation(きらめくイノベーション - 連邦政府による半導体研究への投資がいかに米国経済成長と雇用創出をもたらすか)」というもので、米国の経済成長、雇用創出、および米国のテクノロジーリーダーシップに対する半導体研究開発への連邦政府の投資の影響を分析して、連邦政府が半導体研究にもっと投資することを促しているほか、半導体研究への連邦政府の投資が納税者に卓越した価値をもたらし、経済成長の創出と米国の維持に関心のある政策立案者にとって優先事項となることを示すものとなっている。

米国は、中国政府が「中国製造2025」の目標達成を目差して、莫大な補助金を中国国内の半導体および関連企業に供与してことを批判し攻撃するだけではなく、みずからも同様な補助金制度を設けて、半導体をコアに米国経済を発展させようと「半導体立国」めざす姿が浮彫リとなっている。

  • SIA

    SIAによる調査レポートの表紙 (出所:SIA、以下すべて)

連邦政府による半導体研究への投資が促進する米国の経済成長とテクノロジーリーダーシップ

調査の結果、半導体のR&Dに対する資金提供は、経済全体にわたって莫大な利益をもたらすことがわかったという。具体的には、連邦政府が半導体研究に投資した1ドルごとに、米国の国内総生産(GDP)が16.50ドル増加したことがわかったという。

この数値は、コンピュータおよび電子機器セクターのみへの利益から導き出されたため、経済全体に対する利益としては少なく見積もれていると考えるべきである。実際に、経済全体でのイノベーションを実現する上での半導体が担う広範な役割を考えると、実際に得られる利益はより高くなる可能性がある。

半導体の研究開発への連邦政府の投資が広く相乗効果を生むのは、現代のテクノロジー主導の経済における半導体の独自の役割によるものであるといえる。つまり、半導体技術の進歩は、自動車、農業、生物医学、防衛など、ほぼすべての産業分野にプラスの影響を与えるということである。

さらに、半導体の研究開発に対する連邦政府の投資は、民間企業の研究開発への投資も推進することとなる。その結果、半導体産業はもちろんのこと、半導体の進化によって実現される多くの川下産業のイノベーションを刺激することとなる。これらのイノベーションが米国経済のさらなる成長につながり、米国のグローバルテクノロジーリーダーシップを促進するとしている。

  • SIA

    連邦政府の半導体研究投資が1ドル増えるごとに米国のGDPは16.5ドル増加する

民間企業の投資に後れをとる連邦政府の投資

半導体の研究開発に対する連邦政府の投資は、既存の民間企業の研究開発を補完し、新たな研究開発に対する民間投資のレベルを高める上で重要な役割を果たすが、残念ながら、毎年の連邦政府より拠出される投資額は、民間部門の投資額よりもはるかに遅いペースでしか伸びていなかった。

40年前は、半導体の研究開発に対する連邦政府の投資額は、民間が拠出していた研究開発に対する投資額の2倍ほどあったという。しかし21世紀に入った現在、事情は大きく変化し、民間企業の直接的な半導体研究に対する投資は、連邦政府のそれよりも23倍も多くなっているという。

米国の半導体関連企業の多くが、収益の約20%を毎年研究開発に投資している。これは、あらゆる産業セクターの中にあって、もっとも高い割合だという。2019年、半導体の研究開発に対する民間資金は合計で400億ドル近くにのぼったが、連邦政府が核となる半導体の研究開発に投じたのはわずか17億であったという。半導体関連分野の研究にも43億ドルが投じられているが、こうした政府による投資の増加が、市場の有望性を示すことにつながり、さらなる大きな民間投資につながることが期待できるとしている。

  • SIA

    連邦政府(緑色)および民間企業(青色)の半導体および関連研究投資額の推移

連邦政府の半導体研究開発投資拡大で得られるもの

世界経済の成長がテクノロジーの発展に依存するようになるにつれ、半導体技術の進歩はより複雑化され、それを実現するためのコストは高騰している。そのため、SIAでは、半導体技術および人工知能、量子コンピュータ、高度なワイヤレスネットワークを含む将来の主要技術における米国のリーダーシップを維持するためには、連邦政府の半導体研究開発投資額の増加が必要であると指摘している。

SIAの試算によると、半導体研究に対する連邦政府の投資を3倍にして(2024年までに17億ドルから51億ドルにして)、半導体関連の研究への連邦投資を2倍にすると(2024年までに43億ドルから86億ドルにすると)、2029年までに米国のGDPは1610億ドル増加するという。そして、2029年までに50万人近くの雇用が創出されるとしており、これらの結果、世界的な競争の激化に直面しても、米国のテクノロジーリーダーシップを維持する事ができるようになるとしている。

結論としては、半導体研究への資金の増加は連邦政府にとって健全な投資であり、経済全体に大きな利益をもたらすとしている。

  • SIA

    連邦政府の半導体投資を増やすと得られるであろう未来予想