インド宇宙研究機関(ISRO)のシヴァン総裁は2020年1月1日、ISRO本部で記者会見を開き、昨年9月に失敗に終わった無人探査機「ヴィクラム」による月面着陸について、代替機を開発し、再挑戦すると明らかにした。

また、2021年に予定している有人宇宙飛行に向けて、4人の宇宙飛行士を選抜したことも発表。さらに2020年、インドの宇宙開発はいくつもの新たなミッションに挑む。

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    打ち上げ前のチャンドラヤーン2の着陸機ヴィクラム。台形状の部分がヴィクラムで、そこに探査車「プラギヤン」を搭載する。昨年9月に月面着陸に挑んだが、失敗に終わった (C) ISRO

チャンドラヤーン3

インドは2019年7月、周回機、着陸機、探査車からなる大型の月探査ミッション「チャンドラヤーン2」の打ち上げに成功。月周回軌道への到達に成功し、周回機はいまなお探査を続けているものの、着陸機「ヴィクラム」による月面着陸は失敗に終わった。

これを受け、インドではリベンジとなる「チャンドラヤーン3」を開発することを目指し、検討を進めていた。そして今回、シヴァン総裁によると、インド政府によって正式にチャンドラヤーン3のプロジェクトが承認され、開発が始まったという。

なお、チャンドラヤーン3には周回機はなく、着陸機と探査車のみで構成し、運用中の通信などはチャンドラヤーン2の周回機を利用するという。これにより、開発期間やコストの削減が図れるという。

インドのメディアによると、以前チャンドラヤーン3という名前は、インドと日本が共同で行う、月の南極を探査する探査機に割り当てられることになっていた。しかし、ヴィクラムの着陸失敗を受け、まずは月面着陸の技術を確立することが必要と判断されたことで、チャンドラヤーン2の代替機を先に開発し、打ち上げることとし、その機体にチャンドラヤーン3という名前がつけられることになったという。

打ち上げ時期については明言されなかったが、インドのメディアなどによると、2021年ごろになるという。

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    打ち上げに向けて組み立て中のチャンドラヤーン2の周回機(右)と、着陸機ヴィクラム(左)。チャンドラヤーン3では、着陸機と探査車のみで挑む (C) ISRO

ガガンヤーンの宇宙飛行士選抜

インドは2000年代から有人宇宙飛行への取り組みを続けており、ロシアとの共同開発や破談など、紆余曲折を経て、現在はロケットや宇宙船を自力で開発して打ち上げる、「ガガンヤーン(Gaganyaan)」というミッションが進んでいる。

現時点で、有人飛行は2021年12月の実施が計画されている。これは、2018年8月にインドのナレンドラ・モディ首相が掲げたもので、インドが2022年に独立75周年を迎えることから、それを祝う目的で定められた。

シヴァン総裁によると、ガガンヤーンに搭乗する最初の宇宙飛行士4人を選定したという。この4人は、インド空軍のパイロットで、今年1月からロシアで本格的な訓練を受けることになるという。なお、この4人の氏名などはまだ明らかにされていない。

一方、宇宙船は設計段階を終え、2020年中、もしくは2021年初頭に無人飛行を行う予定だという。この宇宙船は最大3人乗りで、高度300~400kmの地球低軌道に、最大7日間にわたって滞在できるとされる。

宇宙船は、2014年12月に試験機「CARE(Crew Module Atmospheric Re-entry Experiment)」が、弾道飛行ながら飛行試験に成功。また2018年7月には、発射台で宇宙船を載せたロケットに問題が起きたという想定で、緊急脱出システムを使い、宇宙船と搭乗している宇宙飛行士を安全に脱出させるための試験「パッド・アボート・テスト(Pad Abort Test)」も実施している。

また並行して、軌道を周回中のガガンヤーンと通信するための、データ中継衛星も配備される予定で、2020年中にも2機の衛星の打ち上げが計画されている。

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    インドの有人宇宙船ガガンヤーンを打ち上げることになるGSLV Mk IIIロケット(画像は2017年打ち上げ時のもの) (C) ISRO

その他の2020年に予定されているインドの宇宙計画

シヴァン総裁はまた、2020年に予定されている、インドの宇宙計画についても言及した。

ひとつは、インド初となる太陽探査機「アディティヤL1(Aditya-L1)」で、2020年の後半に打ち上げられる予定となっている。質量約1500kgの探査機で、太陽・地球系の第1ラグランジュ点周辺のハロー軌道に投入される。

もうひとつは、小型衛星打ち上げ専用ロケット「SSLV (Small Satellite Launch Vehicle)」の初飛行である。

SSLVは中距離弾道ミサイル「アグニ3」などをもとに開発されたロケットで、3段式の固体ロケットを基本とし、4段目に小型の液体ロケット段を搭載し、正確な軌道投入を実現する。打ち上げ能力は高度約500kmの太陽同期軌道に300kgだという。

近年、小型・超小型衛星の打ち上げの需要が高まっており、インドは従来からある「PSLV」ロケットで一定のシェアを獲得しているが、PSLVよりもさらに小型かつ、低コストで取り回しのいいSSLVを投入することで、さらにシェア拡大を狙う。

すでに、小型衛星の打ち上げ機会の提供などのサービスとして展開している米国のスペースフライト(Spaceflight)が、SSLVと打ち上げ契約を結んでおり、SSLVの2号機で米国企業(詳細は非公開)の衛星が打ち上げられることになっている。

またSSLVの登場に合わせ、ISROはインド南東部のタミル・ナードゥ州に新しいロケット発射場を建設。シヴァン総裁によると、南向きの打ち上げに適していることから、この場所が選ばれたという。ISROにとってはサティシュ・ダワン宇宙センターに続く、2番目の本格的なロケット発射場となる。

このほか、「GSLV」ロケット用の新型フェアリングの投入や、インド国産の原子時計を初めて搭載した測位衛星「IRNSS-1J」の打ち上げなど、インドは2020年にいくつもの新たなミッションに挑む。

出典

Press Meet - Briefing by Dr. K Sivan, Chairman, ISRO - ISRO
SSLV Technical Brochure
Spaceflight Inc. Purchases and Fully Manifests First-Ever Commercial SSLV Mission from NewSpace India Limited (NSIL), the Commercial Arm of ISRO, India - Spaceflight
4 IAF Pilots Selected, Design Phase Of Manned Mission Over: ISRO Chief K Sivan To NDTV
SSLV - Gunter's Space Page