130億年の彼方に予想外の巨大な炭素ガス雲を発見

東京大学宇宙線研究所の藤本征史氏 (現 コペンハーゲン大学ドーン・フェロー)を中心とする国際研究チームは12月16日、アルマ望遠鏡の観測結果を詳細に解析した結果、現在から約130億年ほど前(宇宙が誕生してから約10億年程度)の銀河の周辺を、従来の理論からは説明ができないほど巨大な炭素のガス雲が覆っていることを観測結果から得たと発表した。

同成果は、藤本氏のほか、国立天文台科学研究部の大内正己 教授(東京大学宇宙線研究所 教授)、ピサ国立大学のAndrea Ferrara教授、ピサ国立大学のAndrea Pallottini博士研究員、欧州南天天文台のRob. J. Ivison教授、ピサ国立大学のChristopher Behrens博士研究員、ピサ国立大学のSimona Gallerani 助教授、大阪大学大学院理学研究科博士後期課程の荒田翔平氏、筑波大学計算科学研究センターの矢島秀伸 准教授、大阪大学大学院理学研究科の長峯健太郎 教授(東京大学客員上級科学研究員, Kavli IPMU/ネバダ大学客員教授)らで構成させる国際研究チームによるもの。詳細は、米国の天体物理学専門誌「Astrophysical Journal」に掲載された

宇宙のはじまりの元素は水素

ビックバン理論に基づく宇宙の始まりは約138億年前とされ、超高温・高密度のエネルギーの塊が約10分程度生じ、その間、水素から少量のヘリウムやリチウム、ベリリウムなどへと元素合成が進んだが、この段階では、水素やヘリウムよりも重い「重元素」は誕生していなかった。現在の宇宙には炭素や酸素、鉄といった重元素が多く存在しているが、それらはそうした水素やヘリウムなどが密集して作り上げた恒星の内部で起こった核融合によって生成されたと考えられ、これまでの観測からも、宇宙誕生から7~11億年ごろ(およそ130億年ほど前)には、その間に生まれた銀河の内部には、炭素や水素、酸素のガスが存在していたことが知られていた。

しかし、そうした重元素のガスがいつ生成され、どの程度の量が存在し、広がっているのかについては、地上最高クラスの電波干渉計であるアルマ望遠鏡であっても、感度の問題から約130億年先の銀河を精密に測定することは難しかった。

観測から浮かび上がった予想外の広がり

そこで研究チームは、ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールドなどで観測された、主にろくぶんぎ座、ろ座、くじら座の方角にある130億年彼方の銀河(星)を対象に、これまでアルマ望遠鏡で観測されたデータと複数のデータを重ね合わせ、平均を取る「スタッキング解析」を組み合わせることで、より高い感度の画像の取得を目指したという。

  • 藤本征史

    今回の研究成果ならびに観測手法の説明を行ったコペンハーゲン大学ドーン・フェローの藤本征史氏

具体的には18個の星のアルマ望遠鏡で観測したデータを対象に、スタッキング解析を実施。その結果、それらの星の平均的な分布と比べて、約5倍広い範囲に炭素ガス雲が存在していることが浮き彫りになったという。

  • アルマ望遠鏡

    アルマ望遠鏡で観測した18個の銀河の炭素ガスのデータを重ね合わせた様子をハッブル宇宙望遠鏡による銀河の星の分布画像と合成した画像 (C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, Fujimoto et al.

その規模は実に半径約3万光年で、藤本氏は「スタッキング解析は平均的な描像であり、巨大な天体がたまたまレアな存在として見つかった、というわけではなく、平均的な銀河の姿として宇宙初期には巨大なガス雲が存在していたことが見えてきた」と説明する。現在の銀河では、こうした巨大な炭素ガス雲の報告はないことから、宇宙初期特有の現象の可能性もあるという。

  • アルマ望遠鏡

    観測結果をもとに描かれた銀河を大きく取り囲む炭素ガスの想像図。中心部の青白く見える星の分布に比べて、およそ5倍の広さに炭素ガスが雲状に分布している (C)国立天文台

また、単位面積あたりの放射の強さから、理論的には炭素ガス雲は星と同程度の広がりと見積もられていたが、「可能な限りの初期銀河に対する理論モデルと比較を行ったが、それらはいずれも今回の炭素ガス雲ほどの大きさを持たないことが分かった」(国立天文台の大内正己 教授)とのことで、研究者にとっても予想外の結果であり、さまざまな可能性を考えているが、現在の理論モデルでは説明が不可能で「まだ知られていないメカニズムがある可能性があり、今後の研究課題」(同)とする。

  • 大内正己

    理論モデルと今回の巨大ガス雲がかみ合わないことについての説明を行った国立天文台の大内正己 教授

謎の解明に向けて、さらなる詳細な観測を目指す

大内教授は、「この密度で、あの大きさになるのは驚き。ガス雲にある程度の密度がなければ検出ができなかった。つまり、高密度で大量のガスが噴出していることを意味する」と今回のガス雲の特徴を説明する。また、「宇宙に重元素が広がりだした(宇宙環境が汚染されだした)ころの様子であると考えられる」とも述べており、今回の観測が、重元素が宇宙に広がった何らかの仕組みの解明の手がかりになる可能性を語る。

なお、今回はあくまで平均的な130億年前の銀河には大量の炭素ガス雲が存在していたことが分かったという段階であり、研究チームでは今後、「より正確なガス雲の量が分かれば、その量を吹き出すためにはどの程度のエネルギーが必要かという計算ができるようになる」と大内教授が語るように、アルマ望遠鏡を含む世界各国の望遠鏡を用いた詳細観測を行うことで、宇宙初期において巨大な炭素ガス雲が形成される物理機構の謎の解明を目指すほか、重元素があれば星を作りやすくなることから、そうした星形成の理論などにつながるかなどを調べていきたいとしている。