市場動向調査会社IHS Markitの調査ディレクタである南川明氏が、2019年12月11~13日に東京ビッグサイトで開催された「SEMICON Japan 2019」の併催フォーラム「SEMIマーケットフォーラム」において「エレクトロ二クスと半導体の需要予測と地政学的リスク」と題した講演を行い、2020年の半導体市場の動向について説明を行った。

最近のエレクトロニクス/半導体産業の動向

南川氏は最近のエレクトロ二クス・半導体市場の注目トピックスとして以下の5点を挙げた。

  1. NANDの過剰供給、データセンター投資の減速、iPhone生産量の減少によってNANDの価格は下落し続けている。しかし、中国/米国の新しい減税政策、ハイパースケール・データセンター、5Gインフラストラクチャ、4Kコンテンツ、および携帯電話の季節的需要増加のおかげで、NANDの需要回復が2019年第3四半期から進むことが見込まれている。
  2. GAFAは、5G時代の新しいアーキテクチャ・データセンターの登場を待っている。データ転送速度は100Gbpsから400Gbpsに高速化される。GaNを使用する新しい電源システムにより、電力効率は80%から90%に向上する。
  3. 主要なメモリプレーヤーは、DRAM/NANDの設備投資に非常に慎重になっている。2019年上半期の設備投資を見直し、7~8か月以上にわたる装置搬入の延期を実行している。
  4. 中国では産業機器の自動化への投資が減速しているが、中国やその他のアジア諸国での産業用IoTブームにより、2020年から再び回復する見込みである。
  5. 米中貿易摩擦は落ち着きをみせるにせよ、米国政府による中国ハイテク企業への攻撃はさらに深刻化する。これにより、米国/台湾/日本の半導体企業が恩恵を受けるだろう。中国企業は米国製部品を日本製や台湾製で置き換えようとしている。

また、エレクトロニクス・半導体業界動向としては、

  1. 半導体の需要と供給のバランスは回復段階に入り、NANDの過剰在庫は2020年第1四半期末までに解決するだろう。SSDの需要は、NANDの価格低下により予想以上に増加している(特にPC用SSDが堅調)。5Gスマートフォンが8GB DRAMを搭載するようになり、エッジデータセンターが隆盛するので2020年第2四半期からDRAM需要は増加するだろう。
  2. 米中貿易摩擦は続くが、関税引き下げ交渉が始まる。Huaweiに続いてスーパーコンピュータ企業が標的になるだろう。
  3. 日本の韓国に対する半導体素材輸出規制強化問題は、メモリの生産に大きな影響を与えないだろう。日本のポリシーは、Apple、DELL、HPなどのエンドユーザーへの影響を最小限に抑えることである。最も重要なことは、韓国による第三国への輸出を管理することであり、韓国のメモリメーカーはWTOに違反した案件がなかったか調査している。
  4. Samsungは設備投資を加速すると発表し、2020年第1四半期末までに他の企業も追随するだろう。
  5. エッジデータセンターへの投資は2020年に活発化するだろう。
  6. 半導体工場の稼働率は80%を超えており、高い水準を維持している。1.7KV IGBTは地下鉄(中国)と風力発電(欧州)に採用されており、IGBTの需要はすでに供給を超えており、パワーデバイス不足が発生している。
  7. アナログ、ディスクリート、オプト、センサの12インチ(300mm)ウェハを用いた生産が2018年後半に開始された。Infineon、STMicroelectronics、Boschはパワーデバイスとセンサを12インチウェハを用いて製造している。

2020年の半導体市場のけん引役は5Gとデータセンター

また、今後の半導体産業におけるテクノロジードライバーとしては、以下の4点を挙げた。

  • 5G技術とそれを搭載したスマートフォン
  • データセンター
  • 人工知能(AI)
  • 車載半導体

同氏は、データセンターの動向について「今までは巨大なデータセンターが主流だったが、2020年から本格的に動き出すのがエッジのデータセンターである。家庭用冷蔵庫ほどの大きさである。5G時代の到来で、IoTを活用した遠隔操作などでは20msの遅延が問題になる。そこでユーザーの近くに小型データセンターをたくさん作る必要が出てきた。通信キャリアは基地局にエッジデータセンターを置こうとしている。Samsungもそのためにメモリ需要が増えると読んで大型設備投資を決めている」と述べたほか、「もちろん今後、データ量、とりわけ画像データ量が増え続けるので、GAFAの巨大データセンターも増える」と付け加え、2020年の半導体景気はデータセンターによって支えられるとした。

また注目を集める自動車産業の動向については、「2019年の自動車生産台数は前年比で落ち込み9000万台に留まる見込みである。2008年以降最大の下落幅である。これは2021年にならないと回復しないだろう。米中貿易摩擦が事態を悪化させている。米国では自動車価格およびローン利率の上昇で需要が減退している」とする一方で、車載半導体市場は2019年は停滞したものの、早くも2020年には回復するとの見方を示した。システムとしての自動車は多様な半導体を搭載する方向にあり、自動車メーカーもさまざまな機能を実現すること、特に安全・安心、スマート、環境対策に向けて半導体を増やすことに注力しており、半導体が自動車の目の役割を担いつつあるとする。

  • IHS

    世界の自動車市場における出荷台数(百万台)と前年比増減率(%)の推移 (出所:IHS Markit)

  • IHS

    車載半導体市場におけるカテゴリ別売上高(単位:10億ドル) (出所:IHS Markit)