インターステラテクノロジズ(IST)は11月26日、都内で記者会見を開催し、観測ロケット「MOMO5号機」のミッションを発表した。今回搭載するのは、企業4社、個人1名のペイロード。打ち上げ時期については、今冬であることが明らかになった。MOMOはこれまで、4機とも春~夏の時期に打ち上げており、冬期は今回が初めて。

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    観測ロケット「MOMO5号機」のイメージCG(提供:IST)

なぜ寒さが厳しい冬に打ち上げるのか

MOMOは、全高9.9m、直径50cmの小型液体ロケット。高度100km以上の宇宙空間に、30kg程度のペイロードを送り込む能力がある。2019年5月の3号機で、日本の民間ロケットとしては初めて、高度100kmに到達。7月の4号機は通信系のトラブルにより惜しくも失敗したものの、5号機がもし年内に打ち上げられれば、今年3機目ということになる。

同社は今後、2020年より、MOMOの量産化を開始するという。同社の稲川貴大・代表取締役社長は、機数について「ペイロードやミッションの調整次第」と前置きしつつも、「まず来年は5機前後、その後はもっと多く打ち上げたい」とコメント。現在はMOMO1機を2カ月程度で作れるようになっており、生産能力はすでに問題ない見通しだ。

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    インターステラテクノロジズの稲川貴大・代表取締役社長

同社にとって、ビジネスの本命と見られているのはMOMOと並行して開発中の超小型衛星用ロケット「ZERO」であるが、観測ロケットにも手堅い需要がある。従来、これを担ってきたのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型固体ロケット「S-310」「同520」など。しかし、打ち上げ費用が数億円と高く、打ち上げ頻度も少ない。

一方、MOMOの打ち上げ費用は5,000万円程度と1ケタ低い。2号機から4機連続で、今回も高知工科大学のインフラサウンドセンサーを搭載するが、稲川社長は「従来より早いサイクルで実験ができる」と、強みをアピールした。海外需要の取り込みも積極的に行っており、来年には初の海外ペイロードの可能性もあるとか。

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    MOMOの打ち上げ費用は安く、高頻度の打ち上げが可能になる (C):IST

今回、寒さが厳しい冬期の打ち上げにあえて挑戦する背景には、この量産化がある。北海道の夏は短い。今後、年間5機、10機と打ち上げていくには、年間を通して打ち上げを実施できる体制の構築が不可欠だ。今回の挑戦は、通年打ち上げのための"布石"であると言えるだろう。

あのキャラクターがいよいよ宇宙へ

会見では、5号機のスポンサー7社+1名の発表も行われた。まず機体広告のスポンサーは以下の2社で、機体には大きくロゴが掲載される。

1社目は、北九州市にお好み焼き9店舗を持つなにわ。同社の竹森広樹・代表取締役は、「現在はSNSの普及などにより、失敗を許容しないという世の中の風潮がある。我々の従業員も、失敗を恐れてチャレンジしない傾向が見られるが、ISTを応援することで、なにわが挑戦者を応援する会社であることを、従業員や皆さんに示したい」と述べた。

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    なにわは、お好み焼き専門店を経営。北九州のソウルフードだという (C):IST

2社目は、振動試験装置メーカーのIMV。自動車業界や航空宇宙業界で実績があり、ISTの振動試験をサポートしているほか、JAXAとも長い協力関係が続いているが、同社の小嶋淳平・代表取締役社長は、「設立から62年もやっているのに、知名度が低い」のが悩みだったという。「この支援を通して認知度を上げ、従業員のやる気にも繋げたい」とした。

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    IMVは、振動のスペシャリスト。振動試験は、宇宙開発には欠かせない (C):IST

そして5号機に搭載するペイロードは、企業4社+個人1名の合計5個。

平和酒造は、4号機に続いて、日本酒「紀土」をロケットの燃料に添加する。山本典正・代表取締役社長は、「飲料を燃料にして宇宙に届いたら世界初。日本酒業界はこの50年で3割に減少した衰退産業だが、そういう業界でも面白いことができるという思いを、他の酒蔵の皆さんにも届けたい」と意気込みを述べた。

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    平和酒造は、日本酒を燃料に。打ち上げを応援する商品も販売する (C):IST

高知工科大学のインフラサウンド(超低周波音)センサーは、前述の通り4機連続の搭載となる。インフラサウンドは人間の耳では聞くことができないが、津波等の大規模災害で発生することが知られている。大気圏上層部(高度40km以上)における音の伝わり方を調べることで、防災技術への貢献が期待される。

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    高知工科大学は、独自開発のインフラサウンドセンサーを搭載する (C):IST

サザコーヒーも、前回に続いての搭載となる。同社の鈴木太郎・代表取締役副社長は、「前回はコーヒー豆をそのまま搭載したが、今回は(宇宙服のような)気密パックなので宇宙に行っても大丈夫」とコメント。9袋のセットを搭載する予定だが、一番高いものは1杯1万5000円もするそうで、報道陣を驚かせた。

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    サザコーヒーは、超高級コーヒーの「サザ カップオン9」を搭載 (C):IST

チルは、今回が初搭載。同社は水タバコ専門店・チルインを運営しており、5号機にはリンゴのフレーバーと吸い口を搭載する計画だ。同社の杉山祐・代表取締役は、「お酒、コーヒー、タバコと嗜好品が3つ揃った」と笑わせた後で、「煙なので高いところが好き。一番を取りたくてスポンサードを決めた」と述べた。

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    チルは、水タバコ専門店を都内で展開。日本ではまだ珍しい(C):IST

ペイロードの残りの1つは、超電磁P氏の電子工作となる。同氏のツイートを見ると、搭載するのはどうやら「はちゅねミク」で、宇宙でネギを振る模様だ。同氏についてはコチラの記事も参照して欲しいが、今回は個人としての搭載。MOMOに個人のペイロードが載るのは、今回が初めてのケースとなる。

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    超電磁P氏の電子工作。MOMOは個人のペイロードも受け付けている(C):IST

スポンサー企業の7社目は瓢月堂。同社はペイロードではなく、地上ミッションでの参加となる。このミッションでは、同社のお菓子「たこパティエ」を、なんと打ち上げ時の炎で焼き上げるという。同社の岡田セツ・代表取締役は、「ロケットの炎で焼いたら世界初のお菓子ができるかなと思って参加を決めた」という。

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    前代未聞の「ロケットファイヤー! たこやきプロジェクト」を実施(C):IST

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    設置場所。ISTのエンジニアが美味しく焼ける場所を検討したという(C):IST

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    会見に出席したスポンサー企業の関係者(高知工科大学は欠席)

市場拡大には「ふざけたこと」も必要

4号機までもそうだったが、5号機のスポンサーも非常にバラエティに富んでいる。MOMOのスポンサーは、従来のロケットでは宇宙に縁が全く無さそうな企業が多い。特に、日本酒を燃料に混ぜたり、ロケットの炎でお菓子を焼くなんてことは、国のロケットであれば絶対に不可能だっただろう。

人によっては「ふざけている」と受け取られかねない。しかし、ISTファウンダーの堀江貴文氏は、「真面目な需要しかないときは市場が小さい。みんなが想像もしなかったふざけたことに使われるようになって、初めて市場規模が大きくなる」と指摘。「インターネットもそうだったので、経験則的に分かっている」と意に介さない。

「MOMOはサブオービタルでまだひよっこのロケットだが、2~3年後には、人工衛星を打ち上げられるロケットができる。すると、もっとそういうことをやる人達が出てくると確信している」と堀江氏はコメント。「僕たちも想像できないようなことを宇宙でやる人がどんどん出てきて、楽しく市場に広がると思う」と期待した。

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    インターステラテクノロジズ・ファウンダーの堀江貴文氏

5号機で注目したいのは、今回初めて、個人のペイロードを搭載するということだ。個人でも気軽に利用できるのであれば、もっと様々なことに挑戦する人達が出てくるだろう。費用は、重量、通信量、電力等によって大きく異なるものの、電力も不要な小物程度であれば、「100万円くらいからになるのでは」(稲川社長)ということだ。

なお、冬の北海道は厳しい寒さが予想されるが、今回も有料の特設会場「SKY HILLS」での打ち上げ見学を実施する予定だ(ツアーは日本旅行が開催)。打ち上げを見に行きたい人は、寒さ対策を万全にしつつ、今後の情報をチェックしよう。

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    詳細については、打ち上げ日が決まってから発表されるだろう(C):IST