リンクスは11月22日、19日の名古屋、21日の大阪に続き、東京にて同社の年次カンファレンス「LINXDays 2019」を開催。基調講演として同社代表取締役の村上慶氏が登壇。「民生技術の革新がもたらすオートメーション産業の現実解、そして未来像」と題し、産業分野で、今起こっているAI、IoT、そして半導体を活用した最新動向について説明を行った。

  • LINXDays 2019

    LINXDays 2019の基調講演に登壇する代表取締役の村上慶氏

村上氏は、現在の産業界を取り巻く状況を、「世間ではこの数年、未来の姿については語られてきたが、足元の課題を解決する現実解がとこにあるのかが分かりにくい状況が続いてきたが、ここにきて、ようやく混迷期を抜け出し、現実解が見え始めてきた」と説明。先端技術が用いられる民生分野の技術がこなれて(枯れて)、そうした技術が産業分野に採用されるというトレンドは、これまでと変わりがないが、先端SoC、IoT、AIといった技術の活用による、目の前の課題解決が進みつつあるのが今のタイミングであると現状を分析してみせる。

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  • 民生で使われた技術がこなれてくることで、産業界にも普及するという動きは長年にわたって起こってきた。こうした動きの最新のトレンドがAI、IoT、半導体(SoC)となる

そうした産業界における技術的な拡張に併せて同社もビジネスポートフォリオを順次拡張。2019年時点では屋台骨ともいえる「画像処理」のほか、事業が拡大しつつある「IIoT」「ロボット」に加え、工場外でのそうした技術活用となる「サービスロボット」「エンベデッドビジョン」の5分野をビジネスのテーマに据えて事業の拡大を図っているとする。

進化するAIで手軽になった画像処理

画像処理分野の動向について同氏は、「AIを活用した画像処理の未来像は、究極的にいえば、2~3枚の画像を覚えさせるだけで、あとは自動的にその情報からOKかNGかを判別できるようになる世界。しかし、最新の研究論文などを読んでも、ニューラルネットワークがどう改良されたとか、認識率が数%向上したといった話だけで、学習コストを大きく減らせた、といった話題はなく、こうした未来の到来は少なくとも数年ほどはかかりそうということが見えてきた。ただ、現実解として、製造ラインへの導入はしっかりと進んでいる」と、製造業における画像認識の活用範囲が拡大を続けていることを強調する。

「ただし、賢くトレーニングしてあげなければ、賢いAIには育たないという状況に変わりは無く、このアノテーション作業などの負担が馬鹿にならない。ツールベンダとして、こうした作業負担を軽減できる環境を提供することがテーマになる」として、同社が販売を担当するHALCONの最新バージョンではOKとNGを教えるのではなく、OKの画像だけを教えるだけで良い「アノマリー検出」機能が追加され、こうした作業負担の軽減が進みつつあるとした。

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    賢いAIを作るためには賢いトレーニングが必要だが、そのコストは未だに高いままで、そこを簡単にすることで、AI活用の幅はさらに広がることが期待されるようになる

半導体の高性能化が支える産業用AIの進化

また、AI処理を行う半導体にも言及。学習はGPUでほぼ決まりといえるが、推論はGPUでは消費電力が高すぎるという場所も多く、専用チップの開発を各社がしのぎを削って進めている状況にある。「こうしたAI専用チップが2020~2021年にかけて量産されると、マシンビジョンの領域にもそうした波が押し寄せてくる」とし、HALCONディープラーニングにおける推論処理はArmのNEONプロセッサでも動作できることを説明。GPUに限らずさまざまなSoCとカメラを組み合わせることで、画像認識を手軽にできる環境が整いつつあるとした。

すでに同社も子会社のリンクスアーツが、国内の半導体製造装置メーカーと協力して4台のカメラとJetson Nanoを活用したシステムを開発していることを公言。製造装置の価値を高めることを目的に、光学カメラの設計やコンポーネントの製造などを今後、強力に推し進めていくことを強調した。

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  • 4台の光学カメラとJetson Nanoを組み合わせたカメラコンポーネント。筐体が小さいため、4台のカメラがそのまま並列で入りきらないので、上下に2つずつ設置。下部のカメラは鏡で反射させて映像を取得する工夫を施している。鏡で反射する分だけ、映像にラグが生じるのではないかと思うが、そこも高い技術力で4台のカメラの同期をとることができているという

産業界のロボット=人造人間?

ロボット分野の動向については、「現状、ほとんどの産業用ロボットはビジョンシステムを有していない、いわゆる盲目の状態で、決まった動きだけをするものとなっている。しかし、人手不足への対応や生産性向上といった課題解決には、ロボットに知性と目を持たせる必要がある。これらが搭載されることで、数百万もの新たな作業をロボットに任せることができるようになる」と今後の方向性について説明。その究極的なものが「アーティフィシャル・ワーカー(Artificial Worker)」、つまり人工的に生み出された労働者(人造人間)としてロボットを活用することであるとする。

「例えば、良品を選んでビンピッキングを行って、それを箱に詰めて、最後は指定の箇所に運ぶ」といった一連の作業をできるようにしたい、というのが産業界のニーズであり、すでに部分ごとには実用的な動きが見えてきたとのことで、「ロボットによるピッキングは2年後には爆発的に普及する」との予測を披露した。

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    ピッキング、移動、判断それぞれを個別にできるロボットは存在するが、それを一括して担うことはまだできていない。極論だが、これができるようになるのが、最終的な産業界の目指すところ(人間の代替)となる

すでに国内の自動車メーカーの中には、次世代3次元ロボットピッキング統合パッケージ製品「Bin Picking Studio」を活用して、2つのワークのピッキングを切り替えられるシステムを構築、特定の生産ラインに2020年4月より導入する予定のほか、さらに世界中の生産ラインでビンピッキングを実現するべく、100種類超のピッキング対象物をすべてCADデータ化、対応するハンド(グリッパ)を用意して、対象物をロボットが自身で判別して、ハンドを切り替えて、自動的にピッキングを開始するシステムの開発も進められているとし、「上手く進めば、来年のLINX Daysで発表してもらうこともなくはない」とする。

また、移動部分に関するソリューションも無かったことから、新たにNavitecのAGVナビソフトの販売を開始したことも説明した。

SCADAで始める手軽なIIoT

Industrial IoT(IIoT)の動向については、「日本はデジタルツインにフォーカスしすぎて、足元の課題に対応できていない。その背景にはSCADAが浸透しなかったことにある」と説明。SCADAを活用することで、さまざまなPLCからデータを吸い上げ、それを解析することで、全体的な改善活動につなげられることを説明。すでにトヨタ自動車がアンドン改善のためにSCADA「zenon」を活用して、成果を挙げつつあることを説明した。

新たな取り組みであるサービスロボットについては、サービスロボットよりもAGVの方が現状は需要が高いとの見方を示すが、一方のとエンベデッドビジョンについては、従来の個別にカメラを産業用PCを組み合わせてチューニングを図って、といった動きから、そうしたことを気にしないですぐに3次元検査を可能とするスマートなシステムが登場してきており、さまざまな分野で活用が進んでいるとする。基調講演では語られなかったが、別のセッションとしてトヨタ自動車が3次元光切断スマートセンサ「Gocatorシリーズ」を活用して、自動車に刻まれた車体番号が問題なく打刻されているかを打刻の深さを計測することで実現した話が語られた。

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    コンポーネント化された3次元センサが安価に入手できるようになったことから、3次元の画像処理が一気に市場を拡大させているという

なお、村上氏は、「LINXは今後も時代の潮流を的確に見通し、確かなテクノロジーを提供する」と基調講演の最後に来場者に向けてコメント。現在の5つのビジネス領域において、自社の扱うさまざまなツールを組み合わせたソリューションとしての提案や、6つ目となる市場テーマの探索も進めていくことを明らかにし、今後も新たな技術を提供していくことで、産業界の支援を行っていきたいとしていた。