2019年10月中旬に米国ジョージア州アトランタで開催された半導体表面の洗浄・乾燥とコンディショニング(表面準備)技術に焦点を絞った国際会議「The 16th International Symposium on Semiconductor Cleaning Science and Technology(SCST 16)」は8つのセッション構成で開催された。

  1. 基調講演
  2. FEOL洗浄
  3. BEOL洗浄
  4. 非Si(Ge、SiGe、III-V)洗浄
  5. ウェハの濡れ性および乾燥
  6. ウェットエッチング
  7. パーティクル除去
  8. 汚染制御

長年にわたる一般的なテーマのほかに、最近は次世代高速ロジックデバイスのチャネル(ソース・ドレイン間の電流の流れる通路)材料として高キャリア移動度のGe、SiGe、III-V属化合物半導体に関する研究が進んでおり、そのエッチングや洗浄や表面保護膜に関する発表や、水の表面張力による高アスペクト比構造のパターン倒壊およびそれを防止する洗浄・乾燥に関する発表が目立つようになってきた。

GAA FET構造の洗浄テーマは山積み

基調講演はベルギーimecで最先端ロジックデバイス向けの洗浄技術を研究している鬼木悠介氏で、「Gate-All-Around(GAA)デバイス集積のための選択エッチング:新たな研究の機会と挑戦すべき課題」と題した講演を行った。

imecでは3nmプロセス以降でFinFET構造をGAA FET構造に置き換えられる必要があると見ており、GAA FETプロセスの開発に注力している。

10nmや7nm世代が最先端とされる現在は、魚のひれ(Fin)をいくつも立てたような「FinFET」が使われているが、近い将来、細いワイヤを縦に並べたような「Nanowire(ナノワイヤ)」や、細長いシートと重ねたような「Nanosheet(ナノシート)」が導入される可能性が高い(図1参照)。

そして、チャネルは360度完全にゲートで囲まれた「GAA構造」になる。ショートチャネル効果が抑制され、リーク電流(Leakage)が抑えられ、ゲート幅が広くなることでトランジスタの駆動能力が高まるといった利点がある。このような新規のGAA構造形成には、絶縁膜、半導体、および導体材料のウエット/ドライ選択性あるいは等方性エッチングをさまざまな工程で最適化して適用しなければならない。

その工程とは、シャロートレンチアイソレーション(STI)、インナースペース形成、置換メタルゲート(RMG)、ミドルオブライン(MOL)およびバックエンドオブライン(BEOL)の自己整合相互配線などである。鬼木氏はそれぞれの工程ごとの巧妙なエッチング手法を詳しく紹介した。GAA FETを搭載したロジックLSI量産を実現するまでに挑戦すべき課題は多数あるが研究者にとっては新たな研究のチャンスでもある。

  • SCST 16

    図1 シリコンナノシート(NSH)のチャネルをHigh-K Metal-Gate (HKMG)で取り囲んだGate-All-Around(GAA)構造 (出所:imec)

GAA FETにおいて、Siナノワイヤの積層構造は、Si/SiGe多層積層構造形成後、SiGe層をエッチングで除去して形成するが、その際、Si表面にGeが残渣として残留してしまう。SCREENはimecと共同でこのGAA特有の問題に取り組み、希釈過酸化水素(H2O2)による洗浄がもっとも有効であると報告した。

また、Co配線層表面を正確に極薄く(10nm程度)エッチングするCoリセス工程では、表面の酸化とその酸化膜のエッチングを交互に繰り返す、いわゆるデジタルエッチング(図2)が有効であるが、希釈H2O2と希酢酸の組み合わせが最適であるともSCREENとimecは報告している。

このほか、MOSトランジスタのHigh-K絶縁膜として用いられる酸化ランタン(La2O3)膜は水溶性であるため、純水リンス中に溶解するが、希釈アンモニアを用いてpHを制御することにより溶解を防止できることが栗田工業とimecの共同研究成果として発表された。

  • SCST 16

    図2 Co配線層リセス(表面を非常に薄くエッチングで除去)のための2つの方法。酸化剤/エッチング剤混合液を用いて酸化とエッチングを同時に行う従来の方法(上)と酸化剤とエッチング剤を交互に用いて酸化とエッチングを別々に行うデジタルエッチング手法。酸化膜を成長させ("1"に相当)それを除去する("0"に相当)し、101010…のように繰り返すところからデジタルエッチングと名付けられた (出所:imec)

これらがimecが関わる次世代ロジックデバイス向けの各種エッチング・洗浄に関する発表だが、このほかの注目研究を以下に2件紹介する。

  • SiGe表面の硫黄(S)によるパッシベーション(保護膜)およびGeのエッチングに関してアリゾナ大学が発表。同大学では、非シリコンチャネル材料のエッチング、洗浄、パッシベーションに関して広範囲の研究が以前から行われている。
  • 韓国の延世大が、リン酸を用いたシリコン窒化膜のエッチングの際に、添加剤を用いてシリコン酸化膜との選択比を大きくする工夫や、まったくリン酸を用いず、代わりにフッ酸や塩酸などを微量加えた過熱水を用いる手法を研究していることを明らかにした。また添加剤の効果に関する科学的考察結果も発表。シリコン酸化膜との選択制を高めたシリコン窒化膜のエッチングは、3D NANDの製造工程におけるメモリセルアレイ形成にとって重要なプロセスとなっているが、延世大では、このエッチングに関して集中的に研究しているようである。

なお、次回の半導体洗浄国際会議は、imec主催の「UCPSS(International Symposium on Ultra Clean Processing of Semiconductor Surfaces) 2020」で2020年9月にベルギーで開催される予定。ECS主催のSCST 17は2021年10月に米国フロリダ州オーランドで開催されることがすでに決まっている。