傘下のYangtze Memory Technologies(YMTC)が重慶で64層NANDフラッシュメモリの量産を年内にも開始する方向で準備を進めている中国の国策半導体ハイテク企業である清華紫光集団は6月30日付けで、新たに「DRAM事業グループ(社内カンパニー)」を新設し、Diao Shijing氏を董事長に、Charles Kao氏を最高経営責任者(CEO)にそれぞれ任命したことを明らかにした。

中国の各種メディアにおける報道ならびに台湾の半導体市場動向調査会社TrendForceの情報によれば、Shijing氏は、日本の経済産業省に相当する中国工業情報化部の電子情報局の要職を歴任し、電子産業に関する政策決定に携わった後、2018年5月に紫光集団入りした人物。一方のKao氏は、台湾のDRAMメーカーInotera Memories(現 Micron Technology Taiwan)の元董事長で、紫光集団に移籍後に国際業務担当の執行副総裁などを務めてきたという。

米国が中国のDRAMメーカーであるJHICCをエンティティリストに追加したことから、同社のDRAM量産事業は事実上破綻となったが、今回の動きにより、JHICCとはまったく独立した新たなDRAM事業会社が中国に誕生したことになる。

TrendForceによると、清華集団傘下のDRAM事業体はまだ初期段階にあるが、清華集団としてはYMTCの工場建設の経験を元に、建設作業チームに大きな変更を行わずにDRAM工場の建設を行う計画だという。

工場の建設地は、清華集団はすでに南京で半導体ファブ(生産品目未定)を建設中であることもあり、南京が有力であるが、YMTCのある重慶市とも話し合いが行われているようで、工場建設候補地となっている模様である。「技術面では、DRAMベンダであったQimondaの西安工場の流れを汲む清華紫光集団のIC設計会社であるUnigroup Guoxin MicroelectronicsがDRAM製品の設計に精通しており、新たなDRAM会社における設計開発に貢献することが見込まれる。現在の清華集団に不足しているのはDRAMの生産に必要なプロセス技術で、これは新CEOの人脈を通じた支援が期待される分野である」とTrendForceは分析している。

2014年以降の中国のメモリ産業の発展を俯瞰すると、中央政府のBig Fundの設立と地方政府の投資のおかげで、Innotron MemoryやJHICCといったDRAMメーカーが誕生し、YMTCはNANDフラッシュ製造の礎を築いてきた。一方で、2018年に台湾の鴻海精密工業傘下の中Foxconn Semiconductorsは中国珠海市地方政府と半導体戦略的協力協定の署名を行い、300mmファブを建設する予定であり、その後にDRAM事業に参入する計画を発表していた。しかしながら、その後、音沙汰がまったくない状態であり、この動きは止まっていると見られる。

実は紫光集団にとって、DRAM事業への参入は初めての試みではない。同集団は2014年にDRAMを急ピッチで開発しようとしていた過去があるのだが、その後、中国内のメモリ品種のバランスや地域のバランスを考慮して、NANDフラッシュメモリの開発に切り換えたという経緯がある。

TrendForceは、紫光集団が、この度、DRAM業界に再参入しようと決断したいきさつを以下のように分析している。まず発端となったのが、米国が2018年にJHICCをエンティティリストに入れた上に、量産技術提供パートナーだった台湾UMCが協力を取りやめて引き揚げてしまったので、JHICCは稼働凍結に追い込まれてしまった件。これにより、同社はDRAM量産と開発ができない状態に陥ったといえる。一方のInnotron Memoryは5月のGSA Memory Conferenceに出席し、年末までに8Gb DRAM製品を量産すると述べていたが、自給自足するために必要なDRAM製品を製造するという中国の目標を達成するには単一のDRAM工場では不十分であることが想定される。「中国とアメリカとの間に貿易摩擦が発生し、事態が深刻化するにつれて、中国の半導体自給自足がますます重要な課題となってきており、紫光集団は、NANDフラッシュメモリだけではなく、手薄なDRAMの量産も手掛ける決断をしたようだ」とTrendForceは見ている。

しかし、先端の半導体製造を手掛けようとする中国企業にとって、最大の課題は先端プロセス技術はどこから入手するかということだ。この件についてTrendForceは「新CEOの人脈を通じた支援が期待される」との見方を示しているが、Micronは、旧Inotera幹部や従業員による技術的な営業秘密の中国への持ち出しを以前より問題視しており、今後、製品が市場に出回った際に、米国政府やMicronがどう対応するかが注目される。