5月22-23日に東京で開催された「2019 Flex Japan/MEMS & SENSORSENSORS Forum」において、仏Yole Développementの車載センサー担当アナリストであるJérôme Azémar氏が、「自動車産業におけるセンサ技術と市場動向」と題して講演を行った。その同氏が語った車載センサの将来動向を要約して紹介したい。
世界の自動車産業は2.3兆ドル規模(2017年)であり、独フォルクスワーゲン、トヨタ自動車、ルノー・日産・三菱の3グループが世界の3強だが、2018年はルノー・日産・三菱グループの売上高がトヨタを僅差で上回った模様である。また、今後の自動車産業は年平均成長率2.7%ほどで成長が続くと見られており、中でも車載エレクトロニクスは、年平均成長率7%の1420億ドル規模、そのうち車載センサは同13%の110億ドル規模と見られており、その高い成長率に注目が集まっている。
完全自動運転車に向けた2つのアプローチ方法
完全な自動運転をめざすアプローチは2種類ある。1つは、トヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーが採用する先進運転支援システム(ADAS)の延長線上といったアプローチ。レベル1から徐々にレベルを上げて最終的にはレベル5の自動運転を目指すもので、はじめから走行範囲に制限を設けず、どこでも運転できるように配慮している。これに対するもう1つの挑戦的なアプローチは、IT企業や新興モビリティ企業によるロボティック車で、はじめからレベル5相当のクルマを開発し、走行範囲を徐々に広げて最終的にはどこでも走れる自動運転車を目指すというものである。いずれのアプローチも最終的には目指すのは完全自動運転車であることに変わりはない(図3)。
現在、地球上に走るクルマはレベルゼロのものが過半を占めているが、手が自由になり、足が自由になり、目が自由になり(前を監視する必要がなくなり)、頭脳が自由になり…という具合に自動運転に向けて進化し、2045年までにはその年に販売されるクルマの7割以上が自動運転車になるとYoleでは予測しており、2050年までには販売されるクルマの3割がレベル5の準備が整うものと同氏は予測している(図4)。
自動運転時代に求められる車載センサ
ADAS車には、長距離レーダー、短中距離レーダー、LiDAR、カメラ、超音波センサ、GNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)、赤外線センサなどさまざまなセンサが搭載され、さまざまな目的に活用されている。現状、多くのクルマが採用している前方と後方のセンシングは当然として、自動運転レベルが上がるにつれて360°センシングの実用化がますます重要になってくる。
ちなみにはじめから自動運転を目指すロボティックカーでは、一例として、カメラ8個、LiDAR 6個(短距離4個、中距離1個、長距離1個)、レーダー4個、その他のセンサ10個(超音波センサ8個、GPU/IMU2個)が搭載されているという。
こうした車載センサの中でももっとも数量の伸びが期待されるのが長距離用のカメラで、2030年の年間出荷個数は1000万個程度へと拡大することが期待されている。また、中距離LiDAR、短距離LiDAR、短距離レーダー、短距離カメラもそれぞれ約500万個ほど、長距離レーダーが約250万個ほどと見積もられており、いかに長距離カメラに対する期待が大きいかがうかがえる。また、遠赤外(Long Wave Infra Red)カメラは、夜間の歩行者や野生動物を検出するのに適しており、2021年ごろから年率30%で急成長し、2024年には年間販売額50万台(金額ベースでは1.9億ドル)に達するとYoleでは予測している。
金額ベースでみると、車載カメラモジュールは2018-2023年の間に年間成長率15.8%で成長し、2023年には58億ドルに達することが期待される。一方、LiDARは年間成長率46%の急成長を遂げ、2023年には車載カメラモジュールと同規模の58億ドルに達することが期待され、そのうち75%がロボティックカーで占められるとしている。
一方のレーダーモジュール市場は、利用周波数帯で3種類に分類できるという。24GHzレーダーの市場規模は15.4億ドル(2018年)で、2020年までは微増するがその後減少に転じ、2022年には2018年の規模以下にまで落ち込むとする。また、主流の77GHzレーダーの市場規模は、24.7億ドル(2018年)だが、衝突被害軽減ブレーキ(AEB)の普及につれて成長し、2024年には40億ドルを突破することが期待される。さらにそれよりも高い周波数である79GHzレーダー市場も急成長を遂げることが期待され、2024年には市場規模が20億ドルに達する見込みとしており、レーダー市場全体は年平均成長率23%で成長し、2022年には75億ドルに達するとYoleでは予測している。
センサ処理を担う半導体市場はどうなる?
こうした各種センサの搭載数が増加すると、それらの情報を処理し、車体の各部にフィードバックを行う半導体の重要性も増していくことになる。Yoleでは、車載インフォテインメント用半導体の動向について、現在使用されている複数のMCUが、今後、レベル3あたりまでにFPGAやビジョンプロセッサとして1モジュール化され、その後、レベル5に向けてADAS向けプラットフォームが加わるが、場合によってはこれらが一体化すると予測している(図10)。
2018年の車載コンピュータハードウェアの市場規模は31.5億ドルだが、今後、ロボティックカーが牽引する形で年平均成長率17%で成長を続け、2028年には150億ドルを超える見込みである。
ちなみに現在のレベル2クラスのADAS車に搭載されているプロセッサ性能は1TOPS(Tera operations per second)で消費電力も3~5W程度で収まっているが、レベル4や5の自動運転車では、プロセッサ性能は10TOPS以上求められ、それに伴って消費電力も向上。1チップあたりの消費電力は数10Wに達することが現在の流れで、ロボティックカー側に多くにチップを供給する半導体ベンダもその流れに沿っている。しかし、旧来の自動車メーカーを中心に低消費電力に対する要求は依然として高く、今後の車載プロセッサにとって1TOPS/Wあるいはそれを上回る消費電力当たりの演算性能の実現が開発目標となるとYoleは指摘しており、車載半導体を扱うベンダ各社にとっての挑戦的な課題になるとしている。