今年も4月17日から19日にかけて横浜の情報文化センターで、日本で開催されるコンピュータの国際学会である「COOL Chips 22」が開かれる。そのCOOL Chips 22のプログラムが公開された。

  • COOL Chips 22のロゴ

初日の4月17日は特別講義で、イリノイ大学アーバナシャンペーン校のDeming Chen教授のIoT向けのディープニューラルネットワークの講義と韓国のKAISTのYoungsoo Shin教授の低電力設計の講義である。Shin教授の低電力設計の講義は電力の定義まで踏み込んだかなり詳しい講義のようであり、関係者には参考になるのではないかと思われる。

昨年と同様に、これらの2つの特別講義に引き続いて、最初の招待講演は17:55から行われる。最初の招待講演は、DLU and Domain Specific Computingと題する富士通の丸山氏の講演である。富士通はISC2017においてDLUというニューラルネット用のプロセサを発表しているが、その中身についてはネットワークなどまだ分からない部分がある。これらの不明点がどこまで明らかにされるのか興味が持たれる講演である。また、富士通は第2世代のDLUも開発すると言っており、これについても触れられるのかも注目である。

丸山氏の講演では、ドメインスペシフィックなプロセサということで、富士通のDigital Annealerについても触れられるようである。

2日目の朝の最初の基調講演は、NVIDIA Japanの馬路氏の講演である。ムーアの法則が止まってきている時代にGPUの性能は年率1.5倍で向上しており、Tensorコアの追加やレイトレーシングの性能向上などを成し遂げている。このような現状を説明する。ただし、先般開催されたGTC 2019では、NVIDIAから目立った新製品やテクノロジの発表はなく、この基調講演でも新製品などは発表されない可能性が高い。

2番目の基調講演は、IBMのPatryk Gumann氏のIBMの量子コンピューティングの講演である。量子コンピューティングでは量子間のコヒーレンスが短時間で壊れてしまうことが問題であるが、IBMは材料などの徹底した改良で、量子間のもつれ状態を長く維持することに成功してきているという。また、IBMは、量子化学計算でエラー訂正を不要にするアルゴリズムの開発も行っており、通常のコンピュータと比べて圧倒的に速い量子コンピューティングの実現の可能性が出てきているという。量子コンピューティングに興味のある人には外せない講演である。

そして3番目の基調講演は、NECの新世代スパコンのSX-Aurora TSUBASAのベクタエンジンの発表である。Aurora TSUBASAについては既にあちこちで発表されており、どのような新しい話がでてくるかがポイントである。

2日目の最後には「コンピュータのアーキテクチャはどこに向かうのか」と題したパネルディスカッションが行われる。モデレータはJSTのプリンシパルフェローの木村氏が務める。パネリストは未発表であるが、基調講演などに登壇した各社のエンジニアや研究者が参加するとみられ、面白い議論が行なわれることを期待したい。

3日目に行われる4番目の基調講演はWave Computing社のSanjay Patel氏による「Architectures for efficient, low-power AI Edge processing」と題する講演である。Wave Computing社はデータフロー型のAIエンジンを開発しているスタートアップであるが、2018年にMIPS社を買収して話題になった。Wave ComputingはHot Chips 29で同社のDPUを発表しているがこれはピーク演算性能が181TFlopsというハイエンドのAIプロセサである。今回の講演はLow Power Edge Processingと銘打っており、どのような発表が行われるのか興味深い。

そして最後の講演として、富士通の山村氏がポスト京スパコン用のA64FXプロセサを招待講演する。A64FXプロセサは、昨年のHot Chips 30で発表されており、どのような情報が付け加えられるか興味が持たれるところである。

そして、今回はセッション6のCool Software、セッション9のMachine Learning、セッション10のPacket Processing、セッション11のCache and Memory Systems、セッション12のSignal Processingと一般の論文発表を行うセッションが5セッションあり、合計16件の論文発表が行われる。Cool Chipsで、これだけ一般論文が発表されるようになってきたのは喜ばしいことである。

今回説明したように、今年のCOOL Chipsは、プロセサの関係者としては聞き逃せない発表が並んでいる。興味のある方はぜひ、参加してみていただきたい。