インド宇宙研究機関(ISRO)は2019年1月25日、地球観測衛星「マイクロサットR」を搭載した、「PSLV」ロケットの打ち上げに成功した。
さらに、ロケットの最終段にあたる第4段機体を、宇宙実験などを行う「軌道上プラットフォーム」として活用する新たな試みを実施。それに合わせ、PSLVも「PSLV-DL」と呼ばれる新型機を投入した。
マイクロサットRの打ち上げ
ロケットは日本時間1月25日3時7分(インド時間24日23時37分)、インド南部のシュリーハリコータ島にある、サティシュ・ダワン宇宙センターの第1発射台(FLP)から離昇した。
ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約13分後に、搭載していたマイクロサットR(Microsat-R)を軌道に投入。打ち上げは成功した。
ISROによると、マイクロサットRはISROが開発し、運用する衛星としている。しかしインド・メディアの報道などによると、実際には、インドの防衛研究開発機構(DRDO)が開発し、運用する地球観測衛星だという。打ち上げ時の質量は約740kgで、搭載機器や性能などは不明だが、その出自から、軍事衛星として使用されるものと考えられる。
同クラスの衛星には、ISROが開発し、運用する「カートサット(Cartosat)」シリーズがあるが、マイクロサットRはDRDOが初めて開発した衛星であるため、センサーの分解能などの性能はそれよりも低いとみられる。
ただ、カートサット・シリーズが高度400~700kmほどの極軌道で運用されているのに対し、マイクロサットRは高度274kmの極軌道という、カートサットより、また人工衛星としてもかなり低い高度の軌道に投入されている。これほど低い高度では、わずかに存在する大気との抵抗で高度が下がりやすいため、定期的に軌道高度を上げる必要があるが、その代わりに被写体である地表が近くなるため、センサーの性能が低くても十分な分解能で撮影することが可能になる。
なお、2018年1月には「マイクロサットTD(Microsat-TD)」と呼ばれる衛星が打ち上げられているが、こちらはISROが開発したとされており、つながりはないようである。ちなみにRは、DRDOの名前に含まれるResearch、もしくは偵察を意味するReconnaissanceから取られたものとみられる。
ロケットの第4段機体を軌道上プラットフォームに
ISROはまた、今回の打ち上げで、PSLVロケットの最終段にあたる第4段機体「PS4」を、宇宙実験などを行う「軌道上プラットフォーム」として活用する、新たな試みを実施した。
ロケットの最終段は通常、軌道に乗って搭載している衛星を分離したあと、爆発などを起こさないように処置をしたうえで軌道にとどまり続けるか、もしくは逆噴射し大気圏に再突入して処分したり、他の衛星とぶつからないように別の軌道に乗り移ったりと、基本的には捨てるための運用が行われる。
そこでISROでは、せっかく軌道に乗っているのだから、それをなにかに活かせないかという考えから、PS4に観測機器や実験機器などを搭載し、衛星の分離後も軌道上プラットフォーム(orbital platform)として運用するというアイディアが生まれた。
基本的には従来のPS4と同じではあるものの、新たに太陽電池やバッテリーを追加し、搭載機器に電力を供給できるようになっている。ただ、今回は軌道上プラットフォーム化したPS4の1号機ということもあり、バッテリーのみで、太陽電池は搭載していない。
また、PS4にはもともと、2回のロケット・エンジンの再着火が可能な能力があり、今回も2回にわけた噴射を行い、マイクロサットRを分離した高度270kmの軌道から、高度453kmへの軌道へと乗り移っている。
今回の打ち上げで搭載したのは、インドの学生団体「Space Kidz」が開発した「カラムサットv2(Kalamsat v2)」。カラムサットv2自体は、質量約1kgで、1Uサイズ(10cm四方の立方体)のキューブサットの形をしているものの、機体はPS4に結合され、分離しないようになっている。また前述のように、今回のPS4にはバッテリーしか搭載していないため、稼働時間は数時間だったという。
カラムサットv2は、市販の民生部品を使った電子機器、通信機器の試験を目的としている。将来的にはその技術を、キューブサットよりもさらに小さな、フェムトサットと呼ばれる数十g級の衛星を開発することに役立てたいという。
さらに、軌道上プラットフォーム化したPS4の導入に合わせ、ロケットも「PSLV-DL」と呼ばれる新型機が投入された。
従来、PSLVロケットは、固体ロケット・ブースターを6基装備する「PSLV-G」、「PSLV-XL」と、ブースターをもたない「PSLV-CA」が存在した。
今回のマイクロサットRの質量は、PSLV-CAで十分打ち上げ可能ではあるものの、PS4を軌道上プラットフォームに改修したり、カラムサットv2を搭載したりと重くなったこと、かといってPSLV-XLを使うほどではなかったことから、固体ロケット・ブースターを2基だけ装備したPSLV-DLが新たに開発され、今回デビューを飾った。
PSLVという名前は、Polar Satellite Launch Vehicleの頭文字から取られており、その名のとおり、主に極軌道をまわる地球観測衛星の打ち上げを目的に開発された。しかし実際には、静止通信や航法衛星、さらに月・火星探査機の打ち上げにも使用されるなど、インドの宇宙開発におけるワークホースとして活躍。また近年では、小型・超小型衛星を手頃に打ち上げる手段として、世界からも注目されている。
PSLVは今回を含め、これまでに46機が打ち上げられ、そのうち失敗は3回と、優秀な実績を残している。
出典
・PSLV-C44 successfully launched Microsat-R and Kalamsat-V2 - ISRO
・Launch Kit - ISRO
・PSLV-C44 Launch Brochure - ISRO
・PSLV launches debut orbital platform use of the fourth stage - NASASpaceFlight.com
・ISRO’s first mission of 2019 to put military satellite Microsat-R in space - The Hindu
著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
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