日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部インダストリーマネージャーの藤井創一氏

日本マイクロソフトは、次世代店舗モデル「Smart Store」の実現に向けた支援策を発表した。日本の市場特性を考慮した日本独自の施策として提供するのが特徴だ。

「米国では、小売事業者自らがインテグレーションするが、日本はパートナーが支援するスタイルが一般的であることを考慮。小売事業者と話をする一方で、パートナーを巻き込みながら展開していくことができる施策になっている」(日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部インダストリーマネージャーの藤井創一氏)とした。

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部クラウドソリューションアーキテクト Smart Storeチームリードの越田陽一氏

また、「日本の流通業においては、単一のテクノロジーやソリューシュンでは、ビジネス課題が解決できないこと、新たなテクノロジーに追随できる技術者の育成や確保が困難であること、革新的なサービスを支えるためのシステムのサイロ化による運用コストの増大という課題がある。こうした課題を解決できる」(日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部クラウドソリューションアーキテクト Smart Storeチームリードの越田陽一氏)とする。

  • 「Smart Store」施策の背景

日本マイクロソフトでは、差別化する必要がない流通業界におけるシステム共通部分を、「Smart Store」リファレンスアーキテクチャーとして無償で提供。他社と差別化すべきビジネス領域や革新的サービス部分に経営資源を集中できるようにする考えだ。

具体的には、キャッシュレスによるスマホ決済や、数100万の商品在庫を数100店舗で一括管理できる商品マスターおよび商品トランザクション管理など、店舗ビジネスにおける主要な業務シナリオ、サンプルアプリケーション、サンプルコードを提供する。これらは、GitHubを通じて、リクエストベースで無償提供。まずは、ニーズが高い業務シナリオに基づいて提供することになるという。

  • 「Smart Store」」リファレンスアーキテクチャーとして無償で提供

リファレンスアーキテクチャーを活用した開発によって、新規サービスの開発期間を5割削減でき、実装方式設計コストを7割削減でき、さらに、将来的な運用コストは5割削減できるという。

  • リファレンスアーキテクチャーのメリット

日本マイクロソフトでは、日本の流通業向けのサンプルモデルとして、「Microsoft Smart Box」を用意。商品が入った箱にスマホをかざして、QRコードを読みとって決済を行い、カメラを使って利用者や商品を認識。Azure上の商品マスターと照らし合わせて在庫を管理することができるという。

  • 「Microsoft Smart Box」

また、Smart Storeサービスが開発できる技術者の育成を目的に、Smart Store技術者育成プログラムを2019年3月から提供。今後1年間で約3000人の技術者育成を目指す。また、流通業に特化したビジネスハッカソンを実施して、「Smart Store」リファレンスアーキテクチャーを活用した実践的なアプローチも行う。

ハッカソンについては、2019年3月5日から、東京・有明の東京ビッグサイトで開催される「リテールテックJAPAN」への出展にあわせて募集を開始する。なお、同イベントにおいて、日本マイクロソフトは前年比2倍の展示スペースで出展するという。

さらに、新規ビジネス開発支援も行う体制を構築。マイクロソフトのデジタルトランスフォーメーション支援部隊であるテジタルアドバイザーが、各社の経営や事業ポートフォリオを考慮したコンサルティングを行うほか、パートナー企業による新規ビジネスモデル開発に向けたアイデアソンなどを提供する。ここでは、米スラロームと提携、同社が提供するアジャイルワークショップの仕組みを活用する。

今回の「Smart Store」リファレンスアーキテクチャーの提供においては、イオン、トライアル、ローソンが賛同事業者として参加している。

トライアルホールディングスのグループCIOである西川晋二取締役副会長

トライアルホールディングスのグループCIOである西川晋二取締役副会長は、「現在、店舗における無人レジ化を目指すスマートチェックアウトにおいて、トランザクション処理にAzureを利用しているほか、リテールメディアの実現において、リファレンスアーキテクチャーを利用できると考えている。リテールメディアにおいては、店舗に入る前にスマホにクーポンを提供したり、店内ではレジカートからクーポン券を発行したり、AIカメラを使って、顧客にあわせた提案をサイネージに表示。さらに、店舗を出るとスマホに次回来店時のお買い得クーポンを届けるといったような仕組みを構築することになる。チェックアウトの改革とリテールメディアの実現を目指す上で、日本マイクロソフトのプラットフォームやインフラを活用することが、短期間に、高いレベルを目指すことにつながる。そこを支援してもらえると期待している」と語った。

  • リテールメディアで目指す姿

また、ローソンでは、2018年10月に、千葉県幕張の幕張メッセで開催されたCEATEC JAPAN 2018の当社ブースの未来店舗の展示において、「Smart Store」リファレンスアーキテクチャーを活用したという。

  • ローソンの取り組み

越田氏は、「店舗内には、これまでPOS端末しかなかったが、この1~2年で、POS以外の様々なデバイスが設置されたり、AIが導入されたりしている。だが、日本の流通業は既存のシステムがサイロ化しており、単一ソリューションでは解決できない課題が山積している」と指摘。

「たとえば、需要予測を100%正確に導き出すAIがあったとしても、実際には80個しか売れない。在庫はあるが、棚に並んでいなかったり、少ししか展示されていないと、売れ残りだと判断されて、購入されないといったことが起こるためだ。しかし、そこにカメラを利用した画像解析ソリューションを組み合わせれば、状況を確認し、それに従って棚への商品補充やお勧め提案などができる。予測するソリューションだけでなく、状況を見るソリューションを加えることで、初めて課題を解決できる。ベンチャー企業には、それぞれに得意分野があり、個別のソリューションとして提供しているのが現状だが、リファレンスアーキテクチャーを活用することで、先進テクノロジーを用いた課題解決の仕組みを、オープン化した、業界共通のフレームワークとして提供できるように。日本マイクロソフトは、そうした役割を果たす立場にある」とした。

リアル店舗では、Amazon.comの影響を大きく受けており、対抗軸となるAmazonが提供するAWSのクラウドサービスを心情的に利用したくないという意識も働いている。マイクロソフトとしては、流通業界において、中立的な立場をアピールすることで、優位にビジネスを進める狙いもありそうだ。

一方、日本マイクロソフトでは、O2Oに向けた施策についても発表した。

顧客が、商品を知ってから、商品を購入するまでのストーリーを支援する「カスタマージャーニー作成支援」のほか、マーケティングオートメーション、デジタルマーケティングなどをソリューションを体系化し、システムアーキテクチャーをパターンごとに整理。顧客がすぐに利用できるようにする「ユースケースごとのソリューションパターンの提供」、様々なソリューションベンダーとの連携や海外事例などを活用する「パートナー企業と事業者のエンゲージメント」の3点から取り組む。

  • O2O施策

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部クラウドソリューションアーキテクト Smart O2Oチームリードの柴田英行氏

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部クラウドソリューションアーキテクト Smart O2Oチームリードの柴田英行氏は、「オンラインとオフラインの連携が重視され、それぞれのデータを連携させながら、活用していくフェーズに入ってきた。しかし、流通業においては、どの顧客課題を解決すべきかを想定できていないのが現状だ」としながら、「日本においては、O2Oに関する関連部門がバラバラの施策を行い、相互に連携していなかったり、既存のビジネスモデル領域から抜け出せていなかったりといった状況にある。カスタマージャーニーを起点とした、部門横断型のデジタル改革が必要である。日本マイクロソフトは、海外の成功事例も紹介でき、ユースケースを主導していける立場にある」などとした。

日本マイクロソフトでは、デジタルトランスフォーメーションの推進において、8つの重点業種を掲げており、「流通」を、そのひとつに位置づけている。

日本マイクロソフトのエンタープライズ事業本部内に、流通業に特化した流通サービス営業統括本部を設置。商社、リテール、CPGなどを対象にしたビジネスを行っている。なかでも、インダストリー本部は、営業部門による取り組みとは別に、インダストリーイノベーションにフォーカスし、新たなソリューションを提供することを狙いとした組織となっている。

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部の成塚歩本部長

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 流通サービス営業統括本部の成塚歩本部長は、「テクノロジーが流通業に与えるインバクトが大きくなっている。顧客は、店舗でも購入し、オンラインでも購入するという複雑な購入体験が一般化しており、同時に、オンラインリテーラーによるディスラプションが起こっている。また、日本においては、人口減少に伴う労働力不足が課題となっており、そこにデジタルを活用できるチャンスがある」と現状を説明。

「マイクロソフトでは、インテリジェントリーテルを提唱している。クラウドテクノロジーを使って、データを活用して、洞察を得ることで、顧客体験の向上や従業員の教育の推進、サプライチェーンの強化、流通業の再整備を支援していくことになる。米国では、ウォルマート、GAP、Kroger、Walgreenと戦略的パートナーシップを発表しており、デジタルプラットフォーマーであるマイクロソフトと、リテールが組み合わさることで新たなサービスを創出している。日本でもこうした活動を行っていきたい」とした。

Krogerでは、自ら導入したソリューションを外部にも提供するRaaS(Retail as a Service)への取り組みを開始しているという。

2019年1月13日から15日まで、米ニューヨークのJACOB K.JAVITS CONVENTION CENTERで開催された世界最大級の流通専門展示会「NRF 2019(Retail's Big Show)」のマイクロソフ トブースでも、Krogerの事例などを展示していた。

  • 米ニューヨークで開催された「NRF 2019」のマイクロソフトブースでも、Krogerの事例を展示していた