3カ月後、新生ambie sound earcuffsは、機能を絞り込み、製造原価を落とし、利益率を担保できることが確認でき、いよいよ生産準備が始まった。

同時に、ソニーとWiLとでambieを設立することが決まった2016年下半期は、ソニーのブランドバリューや人的資源をフル活用し、生産体制を整える時期だった。

ソニーという強力なバッググラウンド、ambieというスピード感のある開発体制。どちらが欠けても、商品化に到るのは難しかっただろう。

現在、ソニーからはハードウェア開発担当の三原氏と、ソフトウェア開発担当の計2名がambieのコアメンバーとして出向している。取締役等も含めて10名に満たない小規模な組織だ。

誰かが背中を押さないと始まらない

松本氏は怒涛の3カ月を「三原さんが“混血”になるのに必要な期間だった」と表現する。ソニー出身の三原さんとメンバーの大半が大企業・ベンチャー企業を両方経験しているWiLは“血”が異なる。

ベンチャー企業のスピード感で走らないといけないタイミングでは、ソニーの走り方を踏襲するだけではダメで、ベンチャー企業の走り方も実践できる必要がある。つまり、“混血”になっておかなければならない。

「100%の自信と安心感を持った状態で、新しいものを生み出すなんて不可能です。70%でもいいから飛び込む勇気を持ちたい。僕たちのケースでは、WiLが三原さんを突き落とした(笑)、いや、背中を押す役目を果たしました。『ソニーっていうパラシュートは付いているんだから、飛び込んでみようぜ』って。オープンイノベーションを上手く進めるにあたり、最後の最後でお尻を叩く人は必要でしょうね」(松本氏)

大企業とベンチャー企業、それぞれにメリットとデメリットがある。大企業が持つ豊富なリソースを活かしながら、ベンチャー企業だからこそできる機動力の高さを活かして、ユーザーニーズを逃すことのないよう、迅速な開発・販売を目指して動くことが、成功への近道なのだろう。

本稿のambie sound earcuffsの開発秘話から、オープンイノベーションが上手くいくポイントを見出し、活かしていただけたら幸いだ。