BtoC市場への参入を表明

ジャパンディスプレイ(JDI)は8月1日、ディスプレイ技術を通して、未来の新しい体験を作り出していくプロジェクト「JDI Future Trip Project」を始動させたことを明らかにし、第1弾製品群を公開。併せてBtoC市場への参入を進めることを表明した。

JDIは、国内電機メーカー各社のディスプレイ事業が集結して誕生した ディスプレイパネルの開発製造メーカー。同社 常務執行役員でチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)を務める伊藤嘉明氏は、「沢山の良い技術を持っているものの、本来の力を出し切れていない」として、現在、改革を進めていることを強調。同プロジェクトもその一環で、「モノづくりだけではないコトづくり」の企業へと変貌を遂げるために進められている取り組みだとし、見るだけではなく、五感そのものに訴える新たなインタフェースとしてディスプレイ技術を活用していくことを前提に、以下の3つのイノベーション戦略を新たに策定したとする。

  1. 最終製品ビジネスへ参入
  2. 定期課金ビジネスの導入
  3. テクノロジーで社会的課題を解決
  • JDIが強みを発揮している市場/技術

    JDIが強みを発揮している技術、市場

この戦略により、同社は従来のコンポーネントベンダから、最終製品の製造、販売まで手がける企業へと変貌することを目指す企業となる。その方向性として、社会的課題を解決するソリューションであったり、最終製品をエンドカスタマに売るだけではなく、コンテンツとして提供することで、定期的な課金を促すといったことも視野に入れているとする。

  • JDIが掲げる3つのイノベーション戦略

    JDIが掲げる3つのイノベーション戦略

  • JDIが考えるさまざまな社会課題

    さまざまな社会課題。この中で同社が注目しているのは「少子高齢化」、「高齢者介護」、「個人情報漏洩」の3つ

プロジェクト第1弾となる5つのプロダクトを公開

今回、プロジェクト第1弾として公開されたのは5つのプロダクト。そのリーディングプロダクトとなるのがコンセプト名「XHD-01 スパルタ」と命名されたフルフェイスヘルメット。車載用途で高いシェアを獲得しているヘッドアップディスプレイ(HUD)をヘルメットのバイザー部分に設置、そこにさまざまな情報を表示することで、ライダーは視線をバイクの計器類などに移動させることなく、そうした情報を知ることができるようになるというもの。ヘルメットに限らず、HUDが搭載できるゴーグルやバイザーであれば活用が可能であり、サバイバルゲーム、eスポーツ、ARなどの技術と親和性の高い建設などの作業現場、警備など、さまざまな用途への展開が期待できるとする。

  • 「XHD-01 スパルタ」
  • 「XHD-01 スパルタ」
  • 「XHD-01 スパルタ」
  • 「XHD-01 スパルタ」
  • 「XHD-01 スパルタ」
  • 「XHD-01 スパルタ」
  • 「XHD-01 スパルタ」。HUDをヘルメットに搭載することで、さまざまな情報を視線を移動させることなく確認することができるようになる

2つ目のプロダクトは、朝の忙しさにゆとりをもたらすミラーをコンセプトとした電子鏡「XMR-01 おくれ鏡」(コンセプト名)。これは、ディスプレイを鏡面として活用するほか、インテリジェント性を持たせることで、音声入力によるさまざまな情報の表示を鏡を見ながらできるというもの。これだけだと、すでに同様のコンセプトモデルは複数知られているが、おくれ鏡の真骨頂はインテリジェント性ではなく、カメラで撮影した映像を数秒遅れでディスプレイに表示するという点。これで、長年にわたって1枚の鏡ではできなかった1人で、自分の後姿を確認することができるようになるほか、カメラで複数の画像を撮影して並べることで、髪形の比較なども行なうことができるようになっている。

  • おくれ鏡のデモ

    おくれ鏡のデモの様子。正面を向いたら正面を映すのが普通の鏡

  • おくれ鏡のデモ

    おくれ鏡は数秒遅れて映像が表示されるため、後姿を確認したりといったことができるようになる

3つ目のプロダクトは神谷コーポレーション湘南と共同開発し、2019年度には一般発売も予定しているIoTフルハイトドア「FULL HEIGHT MILAOS(フルハイトミラオス)」。全面ミラーで覆われたドアで、おくれ鏡同様、音声操作で鏡の一部をディスプレイとし、さまざまな情報を表示したりすることを可能とするほか、おくれ鏡の撮影した映像を遅れて表示する、といった機能そのものも搭載しており、ホテルなどでの活用が期待されている。

  • FULL HEIGHT MILAOS
  • FULL HEIGHT MILAOS
  • FULL HEIGHT MILAOSのデモの様子。おくれ鏡の技術をドアに持ち込んだもので、2019年度の商品化が予定されている

4つ目のプロダクトは、NHKメディアテクノロジーとの共同研究開発の成果である2.5次元の立体感ある動画再生を可能とした5.5型ライトフィールドディスプレイ「LF-MIC」(コンセプト名)。従来は、ライトフィールドディスプレイとして17型8Kの高精細液晶ディスプレイの開発が進められてきたが、それを今回、5.5型へとコンパクト化。これにより、ちょっとしたところに立体映像を置くことが可能となり、スパートスピーカー機能と連動させたり、インテリジェント性を持たせることで、例えばダウンロードしたアニメやゲーム、アイドルなどのお気に入りの映像や音声を自分だけのコンテンツとして楽しむことが可能となる。2019年度の発売を目指すとしており、その際には、コンテンツのダウンロード販売などを含めた、課金型ビジネスを模索するとしている。

  • LF-MICのデモ
  • LF-MICのデモ
  • LF-MICのデモ
  • LF-MICのデモ
  • LF-MICのデモ。LFはライトフィールドの略。コンセプトはワクワクをひとりじめ、とのこと

そして5つ目は、スーパーフォーミュラに参戦する「DANDELION RACING」と共同で開発を進める高透過型透明カラーディスプレイ搭載型ヘルメット。すでに2018年7月に富士スピードウェイで試験走行を行なっている様子などが一部で報道されていたが、その開発元がJDIであることが公に明らかにされた。

  • スーパーフォーミュラ向け高透過型透明カラーディスプレイ搭載型ヘルメット
  • スーパーフォーミュラ向け高透過型透明カラーディスプレイ搭載型ヘルメット
  • スーパーフォーミュラ向け高透過型透明カラーディスプレイ搭載型ヘルメット
  • スーパーフォーミュラ向け高透過型透明カラーディスプレイ搭載型ヘルメット。写真で握手を交わしているのは右がJDIの伊藤CMO、左がDANDELION RACINGの野尻智紀 選手。その左がDANDELION RACINGの村岡潔 監督

今回の試験走行で用いられたディスプレイはJDI独自の技術により、従来のカラー液晶ディスプレイでは必須のカラーフィルターおよび偏光板を取り除きつつ、透過率80%を実現したもの。ヘルメットの重量削減はモータースポーツにとって重要な要素の1つである一方、さまざまなレースに必要な情報をドライバーは知る必要があり、軽量化を図った透明ディスプレイを、ヘルメットのシールドに重ねて装着することで、走行中に確認が必要となる温度や燃費などの車両情報を、従来の計器類やモニターへの視線移動なしに行なうことを可能とした。

今後もDANDELION RACINGと連携して、ブラッシュアップを進めていくとしており、今回はガラス基板を用いた透過型ディスプレイであったものを、将来的にはフィルムベースのものにしてさらなる軽量化をはかるなど、実際のレースでの活用に向けた研究開発を進めていくとしている。

プロジェクト第2弾の公開を12月に予定

今回公開された5つのプロダクトは長くてもおよそ3か月程度で開発されたコンセプトモデル群となるという。プロジェクトの大枠としては、BtoC市場に参入する、としているが、今回の取り組みを見る限りは、販路の確保の問題などもBtoCビジネスを行なおうと思えば生じることから、実際にはBtoCで活躍している企業などと協力して、JDIの技術をそうした分野へ適用していく速度を加速させていく、といった印象が強い。

自社でコンシューマ分野に販路を確保するにしても、パートナーと協力して、そうしたパートナーの製品にディスプレイを供給するにしても、伊藤CMOが「改革はできるできないではなく、やるかやらないか。JDIはやるを選択する」と語るように、自社が有する技術をどのような分野にどのように活用していくかを提示できることが、同社の今後の事業の成長につながることは間違いない。そうした意味では、IoT市場の拡大に併せて、さまざまなガジェットがこれまでなかった分野で活用されようとしている現在、同社がこれまでアプローチできてこなかった市場に、こうした取り組みを通じて踏み込んでいき、ディスプレイの可能性を広げることは決して間違った選択ではないと思われる。

なお、同社はプロジェクトを継続して進めていくとしており、第2弾の公開を2018年12月に行なう予定であるとしている。