宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月19日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者説明会を開催した。同機が小惑星リュウグウに到着してから約3週間。今回の会見では、到着後の科学観測の状況や、今後の運用計画などについて、説明が行われた。これから、より接近しての観測も行い、リュウグウについてさらに詳しく調べる。
見えてきたリュウグウの姿
すでに、リュウグウが予想外のコマ型であることは明らかになっていたが、到着後、ONC(光学航法カメラ)、LIDAR(レーザー高度計)、NIRS3(近赤外分光計)、TIR(中間赤外カメラ)による科学観測を継続しており、様々なことが分かりつつある。
まず、リュウグウの地図を作成するにあたり、基準となる経度ゼロ度の点が決定された。リュウグウにおいて、地球のグリニッジに相当するのは、赤道付近で南北に並んでいた岩。視認性が良く目印として適切なため、今後は、この岩を経度ゼロ度として、リュウグウ上の各点の座標が決められることになる。
緯度と経度が決まれば、リュウグウの地形に名前が付けられるようになる。正式には、国際天文学連合(IAU)に申請し、承認される必要があるが、たとえば南極付近にある130mの大岩は亀に似ているので、チーム内では「亀岩」と呼ばれたりしているとか。
参考:「小惑星イトカワの地名」
なお、以前の記事でお伝えしたように、リュウグウは自転の方向が地球と逆のため、北極と南極も逆になる。しかしそれだと分かりにくいということで、今後、一般向けの広報画像は上下を反転させ、上が北極、下が南極となるそうだ。少しややこしいが、以前とは逆になるので注意して欲しい。
今後、本格的に分析を進めていくが、渡邊誠一郎プロジェクトサイエンティスト(名古屋大学大学院 環境学研究科 教授)によれば、すでに「地上のどの隕石とも反射スペクトルの特徴が異なっている」ことが分かったという。「今まで持っていなかったタイプのサンプルがリュウグウから得られるのではないか」と、今後のサンプル採取に期待する。
また、TIR担当の岡田達明氏(JAXA宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授)からは、TIRの初期観測結果についての説明が行われた。TIRは、すでにリュウグウの全球観測に成功。その結果、北半球と南半球で温度が違うことが分かったが、これは自転の傾きによる季節変化だと考えられるとのこと。地球と同じように、夏と冬があるわけだ。
高度6kmからの撮影に成功
吉川真ミッションマネージャ(JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 准教授)からは、今後の運用に関して説明があった。
はやぶさ2は通常、高度20kmのホームポジションに滞在しており、これは「BOX-A」運用と呼ばれる。BOX-Aというのは、ホームポジションの周囲に設定した一辺が1km程度の仮想的な箱である。BOX-A運用では、探査機がこの箱から出ようとしたらスラスタを噴射し、箱の中に戻す運用が行われる。
BOX-Aがあるからには、「BOX-B」や「BOX-C」もあると思うだろう。その通りなのだが、それらを説明する前に、ホームポジションで使う座標系について補足しておきたい。
小惑星に到着するまでは、地球などの公転面を水平方向に考えていたので、リュウグウに対しては、横から接近するイメージだった。しかし、小惑星近傍では、90°回転し、地球の方角を上に、リュウグウの方角を下と考えよう。すると、はやぶさ2がホームポジションでホバリングし、タッチダウン時には「降下」するイメージになるはずだ。
BOX-C運用は、BOX-Aをリュウグウ側に伸ばし、低高度での観測を可能とする運用である。より近くから観測することになるので、分解能が向上。たとえばONCであれば、より小さな岩まで見えるようになるわけだ。この運用は、7月17日より開始。高度6kmまで降下し、8時間滞在して各機器での観測を行った後、再びホームポジションに戻る。
BOX-C運用の後、8月1日~2日には中高度降下運用、同6日~7日には重力計測降下運用を行い、それぞれ高度を約5km、約1kmまで下げる予定だが、目的はそれぞれ異なる。BOX-C運用が観測目的であったのに対し、中高度降下運用は着陸の予行演習となる。そのため降下時の位置制御は、着陸時と同じGCP-NAVによって行われる。
安全にサンプルを採取するためには、大きな岩が転がっているエリアを避ける必要がある。8月下旬に、着陸地点を決定する際には、これら低高度で撮影した高分解能の画像が活躍することになるだろう。