ノースウェスタン大学の研究チームは、リチウムイオン電池の容量を倍増させることが可能な正極材料の組成を理論計算によって特定したと発表した。研究論文はScience Advances系列のオープンアクセス誌「Science Advances」に掲載された。
リチウムイオン電池の正極には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)など、リチウムイオン、遷移金属および酸素の化合物が用いられる。リチウムイオンが正極と負極の間を行き来するとき、遷移金属が電気エネルギーの貯蔵と放出を担う。したがって、正極の容量は充放電反応に寄与できる遷移金属中の電子の数によって制約される。
フランスの研究チームによる先行研究では、コバルトよりも安価なマンガンに遷移金属を置き換えたリチウムイオン電池正極において、容量が従来の2倍以上になったと報告されていた。ただし、このときのマンガン系正極(Li4Mn2O5)は、2回の充放電サイクルで著しい電池性能の劣化が起こるという問題があり、実用化は困難とみなされた。また、マンガンを用いることによる電池の大容量化や劣化の仕組みについても、よくわかっていなかった。
今回の研究では、マンガン系正極での大容量化の理由が解明できたとする。その理由とは、電気エネルギーの貯蔵・放出の過程において、遷移金属であるマンガンだけでなく酸素が反応プロセスに寄与するようになるためであるという。
研究チームは次に、電池の急激な性能劣化を防ぐことを目指して研究を進めた。充電過程に関する知識をもとに、コンピュータによる高速計算を行って元素周期表を精査し、マンガン以外の元素を使った化合物で電池性能を高めることができるかどうか検討した。
その結果、密度汎関数理論による第一原理計算から、マンガン系正極にクロムまたはバナジウムを添加することによって正極の化合物が安定し、大容量化が持続することを理論的に予想できたとする。研究チームは今後、この理論計算が正しいことを実験によって検証したいとしている。