ノースウェスタン大学らの研究チームは、鉄系の正極材料を用いてリチウムイオン電池を高容量化する技術を開発したと発表した。商用化されているコバルト酸リチウム正極を用いたリチウムイオン電池よりも大容量の電池を低コストで実現できる可能性がある。研究論文は「Nature Energy」に掲載された。

  • コバルトを鉄に置き換えて、酸素の酸化還元反応を利用するリチウムイオン電池用正極の概念図(出所:ノースウェスタン大学)

    コバルトを鉄に置き換えて、酸素の酸化還元反応を利用するリチウムイオン電池用正極の概念図(出所:ノースウェスタン大学)

リチウムイオン電池で使われているコバルト酸リチウム正極では、コバルト原子1個に対してリチウムイオン1個が吸蔵される。リチウムイオン電池で充放電可能な電荷の量も、この正極のリチウムイオン吸蔵能力によって制限を受けることになる。さらに、リチウムイオン電池のサイクル寿命を伸ばすといった観点から、実際の電池ではコバルト酸リチウムの理論容量(274mAh/g)に対して、その半分程度の容量だけを使うように性能を制限した設計も行われている。

このためコバルト酸リチウムよりも容量を大きく取れる安価な正極材料の研究開発が続けられている。今回の研究ではコバルトを安価な鉄に置き換えると同時に、充放電反応プロセスにおいて酸素の酸化還元反応を上手く利用するという二つの戦略を立てて、鉄系正極材料の開発を進めたという。

リチウムイオンの吸蔵・放出に酸素を利用できるようにすれば、正極材料の容量をその分高めることができると考えられる。しかし、充放電に酸素を寄与させると、材料中の酸化物が不可逆的反応で気体の酸素となって放出され、電池の可逆的な充放電サイクルが損なわれるという問題がある。このため、酸素の利用は、過去の研究ではあまり上手くいった例がなかった。

ノースウェスタン大学のチームでは、コバルトを鉄に置き換えた場合のリチウム、鉄、酸素のバランスについて、コンピュータシミュレーションを使って検討した。その結果、これらの成分の適切なバランスをとることによって、酸素と鉄がともに電池の可逆反応を担うようにできることを理論的に示すことができたとする。

さらにコンピュータシミュレーションだけにとどまらず、理論予想にもとづいた実際のリチウムイオン電池の試作も行った。鉄系正極材料としてLFO(Li5FeO4)を用い、酸素の酸化還元反応を利用する電池の製作は、アルゴンヌ国立研究所(ANL)のチームが主導した。

この電池では、フル充電された初期状態において、LFO1個に対して4個のリチウムイオンが吸蔵される。したがって、初期状態で吸蔵されるリチウムイオンの数は、コバルト酸リチウム正極の場合よりも多くできる。ただし現状では、電池の充放電プロセスで正極と負極の間を実際に移動できるのは4個のリチウムイオンのうち1個だけなので、取れる電流はこれまでの電池と変わらない。

初期状態で吸蔵されている4個のリチウムイオンをすべて充放電プロセスに利用することができるようになれば、コバルトよりも安価な鉄を使って電池容量を飛躍的に増大させることができるため、今後の研究開発の進展が期待される。