東北大学、八戸工業高等専門学校、国際レスキューシステム研究機構らのグループは5月30日、水を噴射する力で浮上し、火元まで移動できる消火ロボット「ドラゴンファイヤーファイター」を発表した。消防士のリスクを低減し、迅速な消火が期待されるという。今後改良を進め、3年後の実用化を目指す。

  • 「ドラゴンファイヤーファイター」のプロトタイプ

    「ドラゴンファイヤーファイター」のプロトタイプ (C)東北大学田所研究室

東北大学の田所諭 教授はまず、2017年に埼玉県で起きたアスクルの物流倉庫における大規模火災に言及。「もし内部に入って火元消火ができれば、早期に鎮火できたはず。しかし消防士が入ることが難しかったため、外から水をかけるしかなかった。今回開発したドラゴンファイヤーファイターは、大きなソリューションになる可能性がある」という。

  • 東北大学の田所諭教授
  • 東北大学の昆陽雅司 准教授(
  • 東北大学の田所諭 教授(左)と、開発を担当した昆陽雅司 准教授(右)

今回開発したプロトタイプは、長さ3mのホース状のロボット。先端と中間の「ノズルモジュール」から水を下方に噴射し、その反力で空中に浮かぶと同時に、噴射した水で消火活動を行う。これを消防車のはしごに取り付ければ、高層ビルの火災であっても、窓から建物内部に侵入し、火元を直接消火することができるというわけだ。

  • 将来の利用イメージ

    将来の利用イメージ。先端からはミストも噴射し、ホースを高熱から守る (C)東北大学田所研究室

プロトタイプのデモ。窓を想定した隙間を通り、消火することができた (C)東北大学田所研究室

こちらは上からの映像。先端の位置を調整して、うまく水を当てている (C)東北大学田所研究室

浮上して移動するため、建物内部の床の状況に影響を受けないのはメリット。ただ、細長くて柔らかいホースは水の噴射で振動したり暴れたりしやすく、安定して浮上させるのが難しかった。

研究グループは、数理モデルを使って理論的に安定性を解析、水噴射の方向を制御することで安定浮上する手法を開発した。ノズルモジュールには、IMU(慣性計測装置)のほか、ピッチ制御用とロール制御用のノズルが2本ずつ付いており、その4本の噴射角を調整することで、任意の反力ベクトルを作り出す。

ノズルモジュールには、2対のノズルを搭載。それぞれ自由に動く (C)東北大学田所研究室

実際の様子。ノズルが細かく動いていることが分かるだろう (C)東北大学田所研究室

反力の大きさを制御するために、ノズルモジュールに電磁弁を搭載すると、重くなりすぎてシステムが成立しない。しかし2本の対になるノズルを用意すれば、その角度を制御するだけで、反力の大きさも方向も自由に変えることができる(たとえば完全に逆方向に噴射すれば合成した反力はゼロになる)。

  • 4本のノズルの角度を制御するだけなので、構造がシンプルに

    4本のノズルの角度を制御するだけなので、構造がシンプルに。流量の調節は必要ない (C)東北大学田所研究室

また、ホースの上下と左右に、2系統のワイヤーを搭載。上と下、左と右はそれぞれ、ホース根元のプーリーを介して繋がっており、ホースが曲がったときは、内側と外側で長さが変わるため、プーリーが回転する。このプーリーは、急に動くときには強く、ゆっくり動くときには弱く抵抗が発生するようになっており、これで振動を抑える。

  • ホースの上下と左右にワイヤーを搭載

    ホースの上下と左右にワイヤーを搭載。プーリーのダンパーで振動を抑える (C)東北大学田所研究室

先端のノズルモジュールには、カメラも搭載。ジョイスティックによる遠隔操作で、カメラからの映像を見ながら、安全に消火活動を行うことが可能だ。通常のカメラのほか、熱画像カメラも搭載しており、煙で視野が悪いときでも、火元を見つけられるように考えられている。

先端のノズルモジュールのカメラからの映像。これを見ながら遠隔操作する (C)東北大学田所研究室

ロボットの現在の長さは3mだが、実用化に向け、今後はノズルモジュールを増やし、10~20m程度まで長くすることを目指す。すでにメーカーとは協力しているそうで、3年以内に、実際の火災現場を想定した環境で試験を行い、実用性を確認したいとのことだ。

  • ちなみに名称の「ドラゴン」は、中国の「龍舞」に由来するという

    ちなみに名称の「ドラゴン」は、中国の「龍舞」に由来するという。動かし方の原理が似ているとか (C)東北大学田所研究室

なお今回の研究は、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のタフ・ロボティクス・チャレンジ(TRC)の一環として行われたもの。6月14日に福島ロボットテストフィールドで行われるTRCのフィールド評価会では、消防ポンプ車と接続した形での消火実演のデモが行われる予定だ。