カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の研究チームは、ナノサイズの穴をメッシュ状にあけたシリコン基板の熱伝達特性についての研究結果を発表した。シリコンナノメッシュは熱を望んだ位置に伝えることができるため、電子デバイスの効果的な冷却に利用できる可能性があるという。研究論文は「Nanotechnology」に掲載された

  • 今回の研究を主導したUCI機械工学・航空宇宙工学研究者Jaeho Lee氏

    今回の研究を主導したUCI機械工学・航空宇宙工学研究者Jaeho Lee氏 (出所:UCI)

熱電変換デバイスでは、温度勾配(デバイス内での温度差)を利用して熱を電気に変換する。デバイスの熱伝導度が高いと熱はすぐに拡散して温度勾配が消えてしまうので、熱電変換を行うためには熱伝導度は低いほうが都合がよいといえる。

一方で、電子デバイスにとって熱の発生は動作を阻害する要因にもなる。この観点からは、熱伝導度が高く放熱しやすいほうが良いということになる。

このように特に熱電変換デバイスにおいては、熱伝導度に関してお互いに対立する2つの要求があるわけだが、この対立を解消できるのが今回報告されているシリコンナノメッシュであるという。

研究チームの報告によると、ナノサイズの穴を格子状にあけたシリコンナノメッシュでは、熱はシリコン基板に対して縦方向にはよく伝わるが、横方向には伝わりにくい性質をもつ。このため局所的に発生した熱はチップ上に形成した冷却システムに向けて縦方向に逃がすことができるが、それと同時に、横方向には伝わりにくいため必要な温度勾配は維持できると考えられるという。

熱の伝達は仮想粒子であるフォノンの移動として説明することができる。フォノンは波動的な挙動と粒子的な挙動を同時にみせるという特徴がある。研究チームは今回、シリコンにあける穴のサイズとその間隔をさまざまに変えたメッシュを用いることで、フォノンの移動による複雑な熱伝達機構の解明に成功したとしている。

シリコンメッシュの面内方向での熱伝導度の低さは、フォノンの粒子的挙動である後方散乱に由来するという。一方、断面方向での熱伝導度の高さは、長波長のフォノンの波動的挙動に由来すると説明されている。

比較的大きなサイズの電子部品では、ヒートシンク、フィン、あるいはファンなどを使った放熱が可能だが、電子デバイスの微細化にともなって、こうした方法での放熱はすでに限界に達している。今回報告されたシリコンナノメッシュのように、デバイス自体のナノスケールでの構造と熱伝達特性に注目した熱制御技術が今後重要性を増してくるとみられる。