天文学者の国際研究チームは、地球から1300万光年先にある大質量の楕円銀河「ケンタウルスA」の観測データから、多数の矮小銀河がケンタウルスAのまわりに随伴し、狭い円盤状の領域内で回転運動していることがわかったと発表した。この観測結果は、宇宙論のモデルとして有力視されているダークマター理論とは矛盾する点があり、ダークマター理論の妥当性の再検討を促すものであるという。研究論文は科学誌「Science」に掲載された。
ダークマターは、宇宙の全質量・エネルギーの27%程度を占めているとされる未知の重力源である。観測可能な天体からの重力だけでは説明がつかないさまざまな天文観測データから、電磁波による観測ではとらえることができない大量の重力源の存在が示唆されている。これを仮にダークマターと呼んでいるわけで、その正体はいまのところ謎に包まれている。
ダークマターの正体に関する仮説はいくつかあるが、その中で有力視されているものの1つが、「冷たいダークマター粒子」と呼ばれる未発見粒子がダークマターであるとする説である。
冷たいダークマター粒子の存在とダークエネルギーを織り込んだ宇宙模型は「ΛCDMモデル」と呼ばれ、ビッグバンから宇宙の大規模構造が形成されるまでの宇宙の進化をかなり上手く説明できるため、現代宇宙論の標準的な理論モデルとなっている。
研究チームのメンバーであるカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)のMarcel Pawlowski氏によると、ΛCDMモデルに従った場合には、矮小銀河は主銀河の周囲に多かれ少なかれランダムにばらついて存在するはずであり、またそれらの矮小銀河は全方向に向かって動くはずであるという。
しかし、これまでの観測から、私たちの住む天の川銀河やその近傍のアンドロメダ銀河では、矮小銀河の分布と動きはランダムではなく、中心の主銀河のまわりを回転運動していることがわかっていた。
今回の発見は、天の川銀河やアンドロメダ銀河といった私たちのまわりの局所的な宇宙だけでなく、1300万光年先の遠方の銀河でも、やはり矮小銀河が主銀河の周囲の軌道上を回転している証拠を確認したものであるという。
遠方の宇宙での矮小銀河の動きを観測することは簡単ではないが、研究チームによると、ケンタウルスAの周囲の矮小銀河16個のうち14個が、天の川銀河やアンドロメダ銀河でみられるのと同様の規則的な回転運動のパターンをもっていることがわかったとする。
矮小銀河の動きは、地球から見たときの視線方向の速度を調べることによって推定できる。地球から見て遠ざかっていく矮小銀河は光の波のドップラー効果によって赤方偏移し、逆に近づいてくる矮小銀河は青方偏移することになる。矮小銀河のうち赤方偏移するものと青方偏移するものの分布は、それらが狭い円盤状の領域内で主銀河を中心にして回転運動しているとしたときのモデルと一致するという。
ΛCDMモデルが正しいとした場合、天の川、アンドロメダ、ケンタウルスAという3つの銀河について、周囲の矮小銀河の運動がいずれもランダムではない軌道上の回転運動をしているという観測結果は、確率的にありそうにない事象ということになる。
Pawlowski氏は、今回の発見について「われわれが何かを見落としていることを意味している」とコメントしている。そして、その見落としとは「シミュレーションを実行するとき何か重要な構成要素が欠けているか、あるいは基本的なモデルに誤りがあるか」であると指摘している。