中国中央政府は2014年6月に「国家IC産業発展推進ガイドライン」を、また2015年5月には「中国製造2025」政策を打ち出したほか、先進の半導体プロセス技術による製造能力やIC設計技術能力向上を支援する「国家IC産業投資ファンド(通称、大基金)」プログラムを導入し、半導体産業の政策目標を強化してきた。このように、中国の半導体産業は、中国政府による支援政策と基金によって推進されてきた。

台湾TrendForceによる中国半導体産業分析レポートの最新版によると、中国は、中央政府と地方政府の双方ともに半導体産業を手厚く支援しており「大基金」は、「半導体メモリ」、パワー半導体である「SiC/GaN化合物半導体」、そしてIoT/5G/AI/スマートビークルなどの最新アプリケーションに向けた「IC設計」の3つを主要セクターとしてフォーカスしているという。

TrendForceのリサーチディレクターであるJeter Teo氏は「2014年は、6月の『国家IC産業発展推進ガイドライン』の発表と9月の『大基金』の発表により、中国の半導体産業の転換点となった。中国政府は、従来も研究開発奨励金、減税、土地補助金などの施策を実施してきたが、投資ファンドを設定し、M&Aなどの市場志向のアプローチを採用して中国の半導体産業の製造能力と国際競争力を強化するのは初めてのことだった」と指摘している。

この結果、現在までに大基金の支援で、ハイテク投資グループである清華紫光集団(Tsinghua Unigroup)が上海のIC設計ファブレス企業であったSpreadtrumとRDAを買収したり、江蘇長江電子技術(JCET)がシンガポールSTATS ChipPACを買収したりといった動きが活発かした。STATS ChipPACは、世界トップ3のICテスト&パッケージング会社である。さらに、Tongfu Microelectronics(TFME:通富微電)は、米AMDの大量生産アセンブリ・テスト・パッケージング施設(ATMP)を含んだ新たな合弁会社を設立するなど、中国内のIC生産を拡大するためのさまざまな措置を近年、推進してきており、中国と諸外国の競合企業との格差は質量ともに縮小してきているという。

大基金の第1段階はIC製造、第2段階はIC設計に注力

大基金は、第1段階である2017年9月時点で、総額1387.2億人民元(2兆円超)を調達し、これを55のプロジェクトへ投資することになっていたと同レポートは報告している。投資決定額は総額1003億元で、実際の投資額は653億元だったという、そのうちIC製造が最も多く、全体の65%を占めている。次いでIC設計が17%、パッケージング・検査が10%と続くが、中国国内の半導体振興計画は遅れがちで、調達資金の半分も使われていない結果となっている。これは、国外の企業、とりわけトランプ政権下の米国企業からの技術獲得が困難なため、台湾を中心に国外の技術者を一本釣りでリクルートしているのでなおさらである。

  • 国家IC産業投資ファンド(大基金)の半導体産業チェーンにおける投資内訳

    国家IC産業投資ファンド(大基金)の半導体産業チェーンにおける投資内訳。上から時計回りに製造、設計、IC実装およびテスト、製造装置、材料。 (出所:国家IC産業投資ファンド(大基金)の資料をTrendForceが要約、2017年11月)

現在、大基金は第2段階として、その調達額は1500~2000億人民元(約2.5兆円~3.5兆円)に達すると推定されているが、投資先選定のプロジェクトもこれから調整が進められる見通しだ。この第2段階では、IC設計支援の割合が全体20%〜25%に増加するとTrendForceは予測しており、投資プロジェクトも潜在力のあるスタートアップ企業に拡大される予定であるという。

なお、中国の中央政府は、地方の半導体産業育成も主導する立場にあり、地方政府とともに開発を推進している。 こうした取り組みの結果、2017年6月までに、地方半導体産業の投資資金額は5145億人民元(9兆円)に達しており、中央政府の戦略に呼応する形で、現地当局が半導体産業のため資金調達、研究開発、投資、技術革新と人材育成をカバーするための政策を積極的に打ち出していることが見て取れる。このため、複数の都市が今後の数年のうちに、顕著な成長を示し、それが中国全体の半導体産業の構造変化をもたらす可能性があるともTrendForceでは指摘。今後、合肥(ごうひ)、厦門(あもい)、晋江(しんこう)といった地方都市が、中国の新たな時代の半導体産業の主要工業地域として浮上する可能性があるという。

  • 中国半導体産業の省・市別売上高ランキング(2016年)

    中国半導体産業の省・市別売上高ランキング(2016年) (単位:億元)。左から、上海市、江蘇(こうそ)省(南京や無錫などを含む)、北京市、深圳(しんせん)市、西安市、合肥市、成都市、武漢市、廈門(あもい)市 (出所:TrendForce)