ジャパンディスプレイ(JDI)は10月25日、エレクトロニクス化が進む自動車分野に向けたディスプレイの在り方や、自動運転車に向けた自社のディスプレイ技術に関する説明会を開催。2020年に向けた車載向けディスプレイの展望を示した。
冒頭、車載ディスプレイの取り組みの前に、同社 執行役員 チーフマーケティングオフィサーの伊藤嘉明氏が登壇。現在、同社が進めている構造改革への取り組みについての説明を行った。同社は10月1日付けでカンパニー制を導入。これにより同社は、「車載インダストリアル」、「モバイル」、「ディスプレイソリューションズ」の3つのカンパニーに分かれ、個別にキャッシュフローマネジメントの構築を進めていくことになる。
車載ディスプレイは車載インダストリアルカンパニーの事業の柱の1つに位置づけられるもので、同社 執行役員で車載インダストリアルカンパニー社長を務める月崎義幸氏は、「車載ディスプレイの方向性は高付加価値の低温poly-Si(LTPS)液晶製品を強化していくことで、2019年度に2016年度比60%増の売り上げ達成を目指す」と意気込みを見せる。なお、同社は2017年5月に開催した2016年度決算発表において、2016年度の車載売上高を約900億円としているが、今回の60%増が、そのまま当てはまるわけではないことに注意が必要だ。というのも、10月1日付けで行ったカンパニー制の導入により、どのカンパニーがどの製品を扱うのか、という枠組みが変化。車載向けビジネスについても、車載インダストリアルカンパニーがすべて引き継いだわけではないため、と同社では説明している。
車載ディスプレイにそこまで注力する背景には、量産車に採用されれば、長ければ7年程度、製品を供給する必要があるため、事業の安定化に寄与する割合が高いためだ。また、自動車のエレクトロニクス化に伴い、ディスプレイの搭載件数も増加の一途をたどっている。従来は、カーナビゲーションやクラスタ(Instrument Cluster)で採用される程度であったが、将来的にはカーナビの発展系とも言えるCID(Center Information Display)やクラスタのほかにリアシートエンタテイメント(Rear Seat Entertainment:RSE)、助手席用、エアコンなどの制御用、ヘッドアップディスプレイ(Head Up Display:HUD)、リヤミラー、サイドミラーといったように1台当たり平均して5~6枚搭載されることが見込まれているという市場の動きも注力を後押しする要因となっている。
では、従来の事業本部体制と何が異なるのか、というと、a-Si液晶の製造を担当鳥取工場、LTPS液晶の製造を担当する石川工場といった2つの前工程工場(TFT形成やカラーフィルタ貼り合せ、液晶の注入といった工程)ならびにSozhou JDI ElectronicsやKaohsiung Opto-Electronicsといった後工程工場(マザーガラスから要求サイズへの切り出しや偏光板貼り付け、ドライバIC、バックライト、テストといった工程)も内包している点。これにより、顧客への製品提案から設計、生産、販売までをすべてクローズドで行うことができるようになったとする。
こうした動きを踏まえ、同社は今回、新たに2020年の車載ディスプレイの姿として、コンセプトモデルのコックピットを公開した。
同コックピットには、CIDとして、16.7型インセルタッチパネル搭載ディスプレイを、クラスタとして12.3型曲面ディスプレイを横に3枚搭載したほか、リア電子ミラー用ディスプレイも備えたものとなっている。
こうしたコンセプトを開発した背景について月崎社長は、「従来、車載ディスプレイの大半はa-Siであったが、これをLTPSに変えることで、これまでになかった需要や機能を取り込むことが可能になる」と説明する。特にa-SiからLTPSに変えることで、LTPS自体はマスク枚数が増えるためコストがかさむものの、周辺のドライバICやコントローラを減らせ、プリント基板のスペース削減も可能になることから、システム全体のコスト削減が可能になる。また、周辺回路が減ることで、曲面を形成しやすくなる、というメリットも得ることができる。さらに、a-Siに比べLTPSの方が移動度が高いため、同じ開口率であれば高輝度化や高精細化をしやすいという点も特徴となる。「a-Siで輝度を上げようと思うと、バックライトの光を強める必要があるが、それでは熱も同時に発することとなる。従来と同じバックライトの光で、より明るくできるLTPSであれば発熱を抑えることができ、タッチパネルとしての使い勝手も向上する」(同)という。
ただし、これからもLTPS一辺倒で事業を推進していくわけではない。月崎氏はa-SiとLTPSの両輪とするが、その先には「曲面ディスプレイを実現する技術として有機EL(OLED)を意識した開発を進めている」という。すでにJOLEDと協力して、試作を進めており、2021年以降の量産を目指すとしている。有機ELの製造方法には蒸着法と印刷法の2種類があるが、同氏は車載向けには印刷法で実現される解像度(160から200を超す程度のppi)が適していると考えている、とし、「有機ELはバックライトが無いという特徴がある。これは曲面ディスプレイを実現するうえでは魅力的。やらないといけない技術と考えている」(同)とその必要性を強調する。
このほか、スイッチの液晶への置き換えや、液晶技術を用いた指紋認証、ハプティックとの連動といった研究開発も進めており、さらなるディスプレイの用途開発を目指すとする。なお、同氏は「2020年に向けては、高精細、大画面ニーズが車載でも増していく。そうした対応は当然、我々が有する透明液晶技術を活用したタブレットライクな使い方なと、新たなニーズの掘り起こしも積極的に行っていく」と述べており、自動運転時代に合わせた新たな車内体験まで含めた提案なども行っていく方針としている。