米Appleは6月20日(米国時間)、米Qualcommの特許ライセンスに関するビジネスモデルは違法であると米国カリフォルニア州地裁に提訴したことを明らかにした。
Appleは、今回の件に関して次のような声明を発表している。
「Qualcommの違法のビジネス慣行はAppleだけではなく業界全体に害を及ぼしている。QualcommはAppleに対してたった一種類の通信接続用の部品(注:モデムチップだけ。アプリケーションプロセッサは独自のAxxプロセッサを採用)を供給しているのにすぎないのものの、永年にわたり、Apple製品の総コストの一定の割合(注:両社の間にて割合は開示しない契約を交わしている)をライセンス料として要求し続けており、(iPhoneに搭載されている、Qualcommがなんら寄与していない)Appleの技術革新の機能に対して実質的に負担を強いている。Appleは知的財産の価値については深く信奉ずるが、我々のテクノロジーに一切関与していないQualcommに対して対価を支払いを行なう義務があるとは思えない。Apple製品に採用する標準的なテクノロジーに対しては、Appleは常に進んで然るべき代金を支払ってきているが、Qualcommが道理をわきまえた支払条件の交渉を拒絶したことで、Appleとしては法廷に助けを求めるしかないとの考えに至った」。
こうした声明を踏まえると、iPhoneには、確かに初めからQualcommのモデムチップが搭載されてきたが、Qualcommは、iPhoneの製造コストに一定の割合でライセンス料を要求してきた。つまり、モデムはともかく、iPhoneに搭載されている多数のApple独自開発の技術成果に対しても代金の支払いを求めることになっており違法である。このようなやり方はAppleのみならず、産業界全体に害をもたらすので、このようなビジネスモデルに関して裁判で決着をつけるというものである、というように受け止めることができる。
なぜ、このような事態に至ったのか?。実は,半年ほど前からAppleとQualcommは訴訟応酬で泥仕合状態になっていた。
2016年12月末、韓国公正取引委員会(KFTC)はQualcommに対し特許ライセンス手法が独占禁止法に違反したとして過去最大となる1兆200億ウオン(約1000億円)の制裁金支払いを命じた。さらに2017年1月には、米連邦取引委員会(FTC)からも反トラスト法違反で訴えられた。顧客が他社の半導体製品を使わぬように圧力をかけたとの理由だ。
これら当局の動きを受けて、Appleは、Apple製品に対するQualcommの特許使用料の水準が不当に高い(相場の5倍相当)として払い戻しを求める訴訟を起こした。過去のQualcommとの取引条件の見直しを求めたものだ。4月になると、今度はQualcommが「Appleは契約合意に反し、事実を歪めた主張をしている」と反訴した。これに怒ったAppleは、Qualcommとの特許使用料をめぐる争いが解決するまでの間、特許使用料の支払いを保留してしまった。
特許使用料をQualcommに実際に支払うのは、Apple自身ではなく製造委託先というややこしい契約になっている。Qualcommは5月17日、Appleの指示に従い特許料支払いを拒否したことを不当として、Appleの製造委託先4社(台湾に本拠を置く鴻海(ホンハイ)精密工業、和碩聯合科技(ペガトロン)、緯創資通(ウィストロン)、仁宝電脳工業(コンパル))を米連邦地裁に提訴した。また、Appleについても、製造委託先や部品メーカーに特許料支払いを拒否するよう指示したとして提訴している。さらに、iPhoneの米国への輸入差し止め訴訟を起こす検討をしているとも伝えられており、QualcommとAppleの莫大な額の特許使用料を巡る争いは泥沼化している。
今回Applegaが起こした訴訟は、こうした動きの延長線上のものだが、Qualcommの利益の源泉であるロイヤリティ収入に関するビジネスモデルの違法性を問うものであり、Appleが出した声明の冒頭にもあるように産業界全体にかかわる問題にもなってくる。今後、どのようになっていくかはまだ読めないが、その動き次第では、Qualcommの企業存続性にも関わってくる可能性があるほか、同様にロイヤリティ料を顧客に(最終製品の売り上げに対して)課金する、ARMなどのIPベンダのビジネスモデルにも影響する可能性もでてくるだろう。