GaNデバイスは、MOSFETと比較して、より高速、より発熱が少なく、より小型のソリューションを提供する、高密度電力回路向けの次世代半導体です。

パワー・エレクトロニクスの世界は、1959年にベル研究所のダーロン・カーング(Dawon Kahng) とマーティン・アタラ(Martin Atalla)がMOSFET(金属酸化物電界効果トランジスタ)を発明したことで、その画期的発展の第一歩をしるしました。その5年後に、最初の商用MOSFETの量産が開始され、その後、数々の世代のMOSFETトランジスタによって、それまでのバイポーラ・トランジスタでは実現できない性能レベルと密度レベルを達成できるようになりました。

しかし近年、これらの進歩は先細りになりつつあり、次の飛躍的なテクノロジが求められるようになりました。その中でGaN(窒化ガリウム)半導体が登場しました。

ワイド・バンドギャップ・トランジスタ・テクノロジの1つであるGaNは、パワー・エレクトロニクス・システム内で新しいレベルの性能と効率を可能にするという、画期的なソリューションを提供します。GaN半導体固有の数々の利点によって、技術者は、これまでは不可能だった方法で電力密度を再検討し、全世界で増加し続ける電力の需要に対応できるようになりました。この記事では、そのことについて解説します。

GaNを採用する理由

電力密度という観点からは、GaNは、シリコンMOSFETと比較した場合、次のような重要な利点を提供します。

  • より低いオン抵抗(RDS(on)):表1に示すように、GaNの単位面積あたりのオン抵抗は、MOSFETの半分です。つまり、回路内の導通損失が半減するということです。このため、より小型の放熱器と、より簡素な熱管理手法を使用できます。
  • ゲート電荷と出力電荷が小さい:GaNは、より小さなゲート電荷を提供します。 表2に示すように、代表的な中電圧デバイスのゲート電荷はおよそ1nCであり、MOSFETでは4nCです。ゲート電荷が低いことで、損失を削減できると同時に、ターンオン時間とスルーレートを高速にできます。

同様に、表2に示すように、GaNは出力電荷も削減し、このことで個々の設計で2倍の利点を提供します。まず、スイッチング損失を最大80%削減できます。このことは低いオン抵抗と相まって、電力密度に良好な影響を提供します。次に、GaNはトポロジやアプリケーションによっては、最大10倍という非常に高いスイッチング周波数で動作可能です。このことで、総合的な変換効率を最大15%向上すると同時に、磁気部品のサイズや、その回路の実装面積を大幅に縮小できます。

  • 逆方向回復時間がゼロ:シリコンMOSFETは、サイズや特性によって、通常50nC~60nC程度の逆方向回復電荷を持っています。MOSFETがオフになると、寄生ダイオード内の逆方向回復電荷(Qrr) が損失を発生し、この損失のためシステムの総合的なスイッチング損失が増加します。これらの損失はスイッチング周波数に比例して増加します。下の図1からもわかるように、高い周波数でQrr損失を持つMOSFETは、多くのアプリケーションには適しません。

図1 高いスイッチング周波数でのMOSFETの逆方向回復電荷(Qrr) 損失は、同様の規格のGaNと比較して増加する

これに対して、GaNは逆回復電荷がゼロで、Qrr損失もゼロであることから、ハード・スイッチングのアプリケーションには最適です。この様子は、後で説明します。