産業技術総合研究所(産総研)は、同所ナノチューブ実用化研究センターCNT用途チームの阿多 誠介氏、堅田信氏、物理計測標準研究部門 電磁気計測研究グループ 加藤悠人氏らが、スーパーグロース法で作製した単層カーボンナノチューブ(SGCNT)を用いて、高い電磁波遮蔽能を持つ膜を形成する塗料を開発したことを発表した。
電子機器の電磁波を遮蔽するために、金属製の筐体に収納する方法が用いられているが、最近は、機器の多様化や小型軽量化などで、樹脂やゴムの複雑な形状の材料で覆われた筐体や部品が多くなった。そこで、筐体や部品に電磁波遮蔽塗料を塗布する方法が注目されているが、既存の電磁波遮蔽塗料は基材に制限があることや、付与できる電磁波遮蔽能が低いといった課題があった。
今回、研究グループは、電磁波遮蔽能を持つ塗布膜を形成できるSGCNTを用いた水性塗料「SGCNT系水性塗料」を開発した。この新しい塗料は、基材の選択性が高く、バーコート法、スプレー法、ディップ法などのさまざまな塗布方法に対応し、複雑な形状の基材にも塗布膜を形成できる。SGCNTが水中で網目状に分散しており、塗布性にも優れている。また、塗布作業時は塗料の粘度が下がり、塗布終了時には塗料の粘度が高くなるという性質を持つため、塗布面での塗料の液だれが生じにくく、複雑な形状の基材にも塗布膜を形成しやすいという特徴がある。
次に、同塗料を用いてバーコート法およびスプレー法で塗布膜を形成し4.5~6GHzの周波数領域における電磁波遮蔽能を測定した結果、どちらの方法の塗布膜でも測定領域で30dB(99.9%)以上の電磁波遮蔽能を示し、実用上必要な20dB(99.0%)以上の電磁波遮蔽能を有していた。塗布膜は耐熱性にも優れ、膜厚が薄いバーコート法を用いて形成した塗布膜でも180℃で24時間保持の加熱しても、加熱前と同等の電磁波遮蔽能を維持していた。
さらに、同塗料と市販のAg系塗料、CB系塗料からバーコート法を用いて形成した塗布膜の特性を比較した結果、開発されたSGCNT系水性塗料は塗布できる基材の選択性が高く、塗布膜は実用上十分な電磁波遮蔽能を持ち、SGCNTの機械的特性から屈曲性に優れ、変形にも強い。このため、温度変化に伴うゆがみが生じても、割れも発生せず表面状態に変わりはなく、加熱による劣化がないことが確認できた。
なお、市販のAg系塗料は塗布できる基材が限られ、高温環境下ではゆがみやひび、剥がれが発生。また、市販のCB系塗料から形成した塗布膜は十分な電磁波遮蔽能を示さなかったということだ。
今後は、高温環境で使用される自動車用ワイヤーハーネスや、可動部や複雑形状を持つ産業用ロボットなど、さまざまな分野での電磁波遮蔽対策への活用が期待されるとしている。
なお、この技術は東京都江戸川区のタワーホール船堀にて6月15日まで開催中の「プラスチック成形加工学会第28回年次大会」の特別展示ブースで展示されている。