米国の宇宙企業スペースXは6月2日(日本時間)、国際宇宙ステーションに物資を届ける無人の補給船「ドラゴン」運用11号機(CRS-11)を搭載した、「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。
打ち上げられたドラゴンは、2014年にも一度宇宙に行って帰ってきた機体で、今回が2度目の宇宙飛行となる。ドラゴンの再使用は今回が初めてで、同社はロケットに続き、補給船や宇宙船の再使用という難しい挑戦に臨む。
ファルコン9ロケットは、日本時間の6月4日6時7分38秒(米東部夏時間6月3日17時7分38秒)、米国フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39A発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約10分20秒後にドラゴンを分離し、軌道に投入した。
ドラゴンはその後、太陽電池パドルの展開や通信の確立にも成功。このあとも飛行を続け、6月5日23時ごろに、国際宇宙ステーション(ISS)の「ハーモニー」モジュールと結合し、補給物資を届ける。ISSには約4週間滞在する予定で、離脱後はカプセルは大気圏に再突入し、メキシコのバハ・カリフォルニア州沖の太平洋に着水、帰還する予定となっている。
また、ロケットの第1段機体は、打ち上げが行われた発射台にほど近い、ケープ・カナベラル空軍ステーションの第1着陸場(LZ-1)への着陸に成功している。今回使われた機体は新品だったが、スペースXは今月中旬に予定している「ブルガリサット1」の打ち上げで、通算2回目となる再使用打ち上げに挑む。
さらに今回の打ち上げは、第39A発射台から通算100回目となる、記念すべきものだった。これまでに第39A発射台からは、「サターンV」ロケットが12機、スペースシャトルが通算で82回、そしてファルコン9が今回を含め6機打ち上げられている。
初の再使用ミッションに挑むドラゴン
ドラゴン(Dragon)は、スペースXが開発した無人の補給船で、主にISSに水や食料、部品、実験装置などを運ぶことを目的にしている。
ドラゴンの開発は、2005年に米国航空宇宙局(NASA)が発表した、スペースシャトルの引退後にISSへの物資や宇宙飛行士を輸送を民間企業に任せるという方針に応える形で始まった。ドラゴンの開発と並行して、打ち上げを担うファルコン9(Falcon 9)の開発も始まり、2010年6月にはドラゴンの実物大模型を載せて、初の打ち上げが行われた。
同年12月には、ドラゴンの試験機が打ち上げられ、軌道での動作確認や再突入など、一連の流れを試験。2012年5月には、初めてISSへの接近と結合を行い、その性能を実証した。
そして同年10月からは、NASAからの契約に基づいた商業補給ミッション、すなわちスペースXがファルコン9とドラゴンでISSに物資を運ぶのと引き換えに、NASAから運賃の支払いを受けるという、宇宙の宅配便のような運用が始まった。このミッションはこれまでに10回行われており、今回で11回目となった。7号機の打ち上げ失敗以外はすべて成功している。
ドラゴンの特長のひとつは、宇宙から地球へ帰還できる能力をもっているところにある。
ドラゴンは、与圧貨物を搭載するためのカプセル部分と、非与圧貨物を搭載する外部トランク部分の、大きく2つの部分に分かれている。このうちカプセルは有人宇宙船のような大気圏への再突入能力をもっており、これによって物資を地球からISSへ運ぶだけでなく、逆にISSから地球に持ち帰り、たとえばISSの実験で生み出された成果物を、地球にある分析装置で更に詳しく調べることができる。ちなみにトランクは使い捨てで、大気圏に再突入後、燃え尽きる。
ISSに物資を運べる補給船は、スペースXと並んで補給を担う民間企業のオービタルATKが運用する「シグナス」や、日本が運用する「こうのとり」、ロシアの「プログレス」などがあるが、これらはどれも地球に帰還する能力はない。ロシアの有人宇宙船「ソユーズ」は、宇宙飛行士といっしょに物資を持ち帰ることもできるものの、機体の大きさなどの都合上、あまり大きいものや、大量のものを持ち帰ることはできない。そのためドラゴンは、この点においてはほぼ唯一無二の性能をもっている。
そして、ドラゴンのもうひとつの特長として、カプセル部分を再使用できることがある。実際に再使用が行われたのは今回のドラゴンCRS-11が初めてで、このカプセルは2014年9月にドラゴン補給船運用4号機(CRS-4)として打ち上げられ、34日間宇宙に滞在したのち、10月に帰還しており、今回が2回目の宇宙飛行となる。
ただし完全な再使用ではなく、耐熱シールドなど一部は交換する必要があるという。また、同じカプセルが何回再使用が可能なのかなど、詳細もまだ明らかになっていない。スペースXでは今後のミッションでもカプセルの再使用を行うとしている。
ちなみに再使用できる宇宙船はドラゴンが初めてではなく、米国の「ジェミニ」やスペースシャトル、X-37Bのほか、ソ連の宇宙船「VA」も、実際に再使用飛行を行なった経験をもっている。
スペースXはすでに、打ち上げコストの低減を狙ってファルコン9の機体の再使用化を進めているが、ドラゴンの場合はコスト削減というよりは、現行のドラゴン補給船の製造ラインをなくし、有人宇宙船「ドラゴン2」の開発と製造、またそれをもとにした新型のドラゴン補給船の開発と製造を促進させる狙いがある。
ドラゴン2の無人飛行は2017年中に、有人飛行は2018年に予定されており、それをもとにした新型の補給船は2019年から運用が始まる予定となっている。
このドラゴン2と、それをもとにした新型補給船では、従来のパラシュートを使った着水にかわって、ロケット・エンジンを噴射しながら陸上に軟着陸する方法が導入される。ただ、ドラゴン2の初期のミッションでは、実績を重視してパラシュートで着水するようにし、並行して新型ドラゴン補給船でロケットによる着陸の実証を行い、その後有人のドラゴン2も同様の着陸方法に移す、という計画をもっているようである。
ロケットを使った軟着陸は、機体を狙った場所に、ゆるやかに降ろすことができるため、回収や整備の手間が省け、中の宇宙飛行士や物資にも優しいという利点があるほか、火星や月など、大気が薄い、あるいはほとんどない天体への着陸にも応用できることから、太陽系のさまざまな天体への有人飛行や移住という構想をもつスペースXにとっては、必要不可欠な技術になる。