米国、ドイツ、スペインの国際研究チームは、金原子の間でナノスケールの熱伝導を測定することに成功した。

また、古典物理学における熱伝導の基本法則である「ウィーデマン・フランツの法則」が原子レベルでも成り立っていることも確認された。ナノスケールでの熱伝導現象の解明によって、微細な半導体チップ上で熱を制御し、効率よく冷却するための重要な知見が得られると期待される。研究論文は科学誌「Science」に掲載された。

金ワイヤの原子レベル接合部における熱伝導のイメージ(出所:コンスタンツ大学)

今回の研究では、金ワイヤを切れないように引っ張って伸ばし、接合部の断面積が原子1個分になるところまで細くした金の鎖構造を形成した。この極細の金ワイヤの鎖に電流を流し、金原子の間での熱伝導について調べた。

極細金ワイヤの電気伝導率は、いくつかの理論モデルによって予測可能であり、また実際にモデル通りの値となることが実験的にも確認されている。したがって、どのくらいの電圧をかけるとどの程度の量の電子が金ワイヤ中を流れるかは計算できる。一方、温度差によってどの程度の量の熱がワイヤ中を伝わるかについては、これまで原子レベルでの測定が行われた例はなかった。

金属においては、熱伝導率と電気伝導率の比が温度に比例するという「ウィーデマン・フランツの法則」が成り立つことが知られているが、この法則が原子レベルでも成立するかどうかについても確認されていなかった。

原子レベルでの熱伝導には、電子の動きだけでなく量子化された原子振動(フォノン)も関係していると考えられ、これらを量子力学的に記述する必要がある。一方、ウィーデマン・フランツの法則は、マクロな現象を説明するための古典物理学の理論であるため、これをナノスケールの熱伝導にそのまま適用することはできない。そこでまずは、原子レベルの細さの金ワイヤでの熱伝導において、フォノンの影響がどの程度あるのかを検討した。

研究チームは、密度関数理論(DFT)にもとづき、個々の接合部における電子とフォノンの寄与度を見積もった。理論計算の結果、熱伝導に対するフォノンの寄与は10%未満と低く、熱伝導の決定的要因ではないことが示された。同時に、ウィーデマン・フランツの法則が適用できるというシミュレーション結果も得た。

このシミュレーションは実験的にも確認され、金ワイヤでの熱伝導は、フォノンの影響を無視してウィーデマン・フランツの法則によって定量化できることが示された。

これまでは、単原子レベルの接合部を伝わる極めて微量の熱の信号を拾うことができていなかった。今回、ミシガン大学の研究チームが開発した実験手法によって、実際の信号のフィルタリングと測定ができるようになり、理論と実験の比較が可能になった。同様の手法で、金ワイヤ以外のナノ材料における熱伝導も研究できるという。