理化学研究所(理研)などは2月14日、磁性層と非磁性層を交互に積み重ねた「トポロジカル絶縁体」積層薄膜を作製することで、特殊な「電気磁気効果」の発現が期待される新しい量子状態を実現したと発表した。

同成果は、理化学研究所 創発物性科学研究センター強相関物性研究グループの茂木将孝研修生、十倉好紀グループディレクター、強相関界面研究グループ 川﨑雅司グループディレクター、強相関量子伝導研究チーム 川村稔専任研究員、東北大学金属材料研究所 塚﨑敦教授、産業技術総合研究所 白川直樹研究チーム長らの研究グループによるもので、2月13日付けの英国科学誌「Nature Materials」オンライン版に掲載された。

電気磁気効果は電場印加によって磁化が発生したり、逆に磁場印加によって電気分極が起きたりする現象のことで、将来の省電力メモリ素子への応用が期待されている。一方、トポロジカル絶縁体は、物質内は電気を通さないが表面は電気を通す物質であり、トポロジーに由来する特殊な電気磁気効果が発現すると理論的に予測されている。

しかし、トポロジカル絶縁体では通常、金属的な表面状態により電気磁気効果が生じないため、電気磁気効果の観測にはトポロジカル絶縁体の表面を絶縁化する必要がある。理論的には、2つの磁性層の磁化を、表面に対して垂直にそれぞれ逆向きに向かせると絶縁体になると予測されているが、従来の技術では磁化の向きを制御するのは困難であった。

今回、同研究グループは、独自開発した「磁気変調ドーピング」という手法により、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)、Te(テルル)からなるトポロジカル絶縁体「(Bi1-ySby)2Te3」と、これに磁性元素Cr(クロム)を添加した磁性トポロジカル絶縁体「Crx(Bi1-ySby)2-xTe3」を用いて、磁性/非磁性/磁性の三層に積層した薄膜を半導体材料のインジウムリン(InP)基板上に作製。この薄膜に対して垂直方向に強い外部磁場を印加して磁化方向を揃えたところ、磁化が一方向にすべて揃っている場合に生じる「量子異常ホール効果」が観測された。

次に、外部磁場の印加方向を反転させてだんだん強くしていくと、ある大きさの磁場で保磁力の小さい層の磁化が反転。2つの磁性層の磁化が反平行になる状態ができると同時に薄膜試料に電流が流れなくなり、表面が完全に絶縁化することがわかった。この結果は、磁化の方向を制御することで、トポロジカル絶縁体の表面を絶縁化し、量子異常ホール効果から特殊な電気磁気効果の観測が期待される絶縁体状態へ変換できたことを示しているものといえる。

同研究グループは今後、今回の研究で実現された新しい量子状態において、電気磁気効果の直接観測が期待できると説明している。

トポロジカル絶縁体積層薄膜における量子異常ホール効果と電気磁気効果の概念図。トポロジカル絶縁体の表面に対して磁化が一方向にそろっているときには、試料の端にだけ電流が流れる量子異常ホール効果が現れる(a)。トポロジカル絶縁体の表面に対して磁化が反平行になっているときには、試料の端にも電流が流れなくなり、完全な絶縁体が実現する。この完全な絶縁体では、特殊な電気磁気効果の観測が期待されており、たとえば外部磁場を印加すると同じ向きに電気分極が生じる(b) (画像提供:理化学研究所)