慶應義塾大学(慶応大)は1月16日、国立天文台ASTE望遠鏡および野辺山45m電波望遠鏡を用いて、天の川銀河の円盤部で発見された超高速度分子ガス成分「Bullet(弾丸)」の電波分光観測を行った結果、それが5000年から8000年前に起きた局所的な現象によって駆動された成分である事を確認し、その駆動源は一時的に活性化したブラックホールである可能性が高いことを発表した。

同成果は、同大大学院理工学研究科の山田真也氏(修士課程2年)ならびに同理工学部物理学科の岡朋治 教授らによるもの。詳細は米国の天文学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」(オンライン版)に掲載された。

これまで研究チームは、1つの超新星爆発が星間ガスに与える運動エネルギーを精密に直接測定することを目的に、太陽から約1万光年の距離にある超新星残骸W44の観測的研究を進めてきたが、その過程で、W44に付随する分子雲中に超新星残骸の膨張運動から大きくかけ離れた、「Bullet」と呼ばれる直径約2光年で、120km/sの速度幅を呈し、天の川銀河の回転方向とは完全に逆方向の速度を有する高速度成分を発見していた。

今回、研究チームは、Bulletの起源を探ることを目的に、国立天文台ASTE望遠鏡および野辺山45m電波望遠鏡を用いた分子スペクトル線によるイメージング観測を実施。その結果、膨張速度と大きさから計算される年齢は5000~8000年となり、これらの値は、これまで認識されているどの種類の天体でも説明が不可能なため、新たに、超新星残骸の衝撃波が点状重力源を通過、衝撃波後方の高密度層の一部が重力源へと降着し、重力エネルギーが解放されるという「爆発モデル」、および高速の点状重力源が超新星衝撃波後方の高密度層に突入、重力で引き寄せられた部分が加速される「突入モデル」の2つのシナリオを提案。いずれのシナリオについても、Bulletの駆動源としてブラックホールが本質的な役割を果たしており、結果、現状で想定されるBulletの駆動源は、伴星を持たない単独の野良ブラックホールである可能性が出てきたとする。

ただし研究チームでは、現在の観測結果からは、どちらのシナリオに沿って形成されたのかは判断できないとしているほか、電波干渉計を使用した高解像度イメージングによってブラックホールのごく近傍からの電波放射が検出される可能性があり、それによりブラックホールとBulletの位置関係が明らかになれば、シナリオの判定が可能になるかもしれないとコメント。また、今回の研究から、自らは明るく輝いていない野良ブラックホールの存在を確認する1つの手法が示されたことから、天の川銀河の中に無数に存在する同種天体の、研究の端緒が開かれたと言えるとしている。

今回の観測からその存在が示唆される、「野良ブラックホール」の想像図。分子雲を「野良ブラックホール」が突き抜け、ブラックホールの重力に引かれて分子ガスがブラックホールに高速で引きずられている様子が描かれている (C)慶應義塾大学