同期整流降圧-昇圧型コンバータについて

車載バッテリからの入力電圧が、DC/DCコンバータの安定化出力の設定電圧よりも高い、同じ、または低い電圧範囲に変動し、連続した降圧-昇圧変換動作が必要になると予想される場合、安定化とコンディショニングの両機能の提供は、より困難になります。従来の降圧型または昇圧型コンバータは、それぞれ降圧、昇圧の変換機能しか提供できないため、適合しないと考えられます。

図1に、高精度に安定化された12V電源レール出力を提供する、4スイッチ同期整流降圧-昇圧型コンバータの全回路図を示します。このソリューションは、過酷なバッテリ電圧の過渡事象に対しても、グリッチなしで負荷への電源供給の確保を必要とする、EMU(エンジン管理ユニット)製品や、駆動機構、燃料システムや安全サブシステムなどの車載機能に適用できます。

この降圧-昇圧型電源ステージの最大の利点は、簡素な降圧動作モードと昇圧動作モードを使い、高い電力変換効率が可能なことです。従来のシングル・スイッチの反転降圧-昇圧型回路と異なり、この回路は正の出力電圧を提供するほか、簡素な磁気部品のおかげで、SEPIC、フライバック型、Zeta型やカスケード接続の昇圧-降圧型などの各トポロジと比較して、より低い電力損失や、より高い電力密度を提供します[5,6]。さらには、この4スイッチ降圧-昇圧型コンバータ回路は直覚的なトポロジ手法、コンパクトなソリューション・サイズ、昇圧モードでの制御されたスタートアップと短絡保護、簡素な制御と補償、それに一定のスイッチング周波数などの特長を備えています。これらの理由で、この回路は車載のバッテリ電圧の安定化に最適です。

図1:ピーク/バレー電流モード制御を組み合わせた4スイッチ降圧-昇圧型コンバータの回路図

図1の回路では、ゲート・ドライバIC(集積回路)、バイアス電源、電流センシング、出力電圧のフィードバック、ループ補償、プログラマブルUVLO(電圧低下ロックアウト)やノイズ低減に役立つディザーのオプションをはじめ、パワー・ステージの各部品やコントローラに、特定の製品を使用しています。ここでは、ソリューションの基板実装面積の縮小と、AM放送の周波数帯への妨害の防止のため、400kHzのスイッチング周波数を選択しました。

4本のパワーMOSFETをHブリッジとして使い、降圧レグと昇圧レグを構成し、SW1とSW2の各スイッチ・ノードを電源インダクタLFに接続しています。入力電圧が、出力電圧よりも適度に高い場合には従来の同期整流降圧型、適度に低い場合には同期整流昇圧型の動作となり、反対側の、スイッチングしてないレグのハイサイド(高圧側)MOSFETは導通して電流経路となります。しかし、この降圧-昇圧型回路の最大の特長は、入力電圧が出力設定電圧に近づいた場合の降圧-昇圧動作の遷移領域に、独自の手法が採用されていることであり、この場合には降圧レグと昇圧レグのそれぞれのスイッチが、半分のスイッチング周波数で位相シフトされインターリーブ動作を行います。この動作は、変換効率や電源損失の面で特に有利です[7]。昇圧動作ではピーク電流モード、降圧動作ではバレー電流モードとなり、これらを組み合わせた制御アーキテクチャは、スムースなモード遷移が可能であり、必要なのは、電流センシングのための1本のローサイド(低圧側)シャント抵抗だけです。

表2:4スイッチ同期整流降圧-昇圧型コンバータの基本構成部品

図2に、入力電圧と負荷変動に対する、電力変換効率と各部品の電力損失を示します。この変換効率特性は、図1のコンバータ回路を元に導き出しました。基本的な構成部品を表2に示します。総合的な電力損失を考慮すると、この12Vの安定化出力のコンバータは、広範囲の入力電圧と出力電流で95%を超える電力変換効率を簡単に可能にすることがわかりました。

図2:4スイッチ同期整流降圧-昇圧型コンバータの、(a) 負荷電流、(b)入力電圧の変化に対する、変換効率のプロットと各部品の電力損失の分析