デルは30日、産業向けVRセミナー「いよいよやって来た! 産業向けVRの現状と可能性」を開催した。本稿では、慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科(KMD) 南澤孝太准教授による基調講演「VRによる身体の再設計」の模様をお届けする。
南澤准教授は、日本に昨今トレンドワードと化している「バーチャルリアリティ(VR)」という言葉を持ち込んだ東京大学・館名誉教授のもとで学び、主にテレイグジスタンス(遠隔存在感)の研究を行っている人物。今年6月には、「攻殻機動隊」の世界観を表現するプロジェクトのトークイベントにも登壇した。
この講演は、最先端技術という切り口で連日取り上げられるVRの歴史をひもときながら、大学の研究者たちが次の世代のVRというものをどう考えているのかという視点で展開された。
バーチャルリアリティはいつから始まった?
近年、先端技術として注目されているVRだが、その誕生は1965年、50年前と意外に古い。当時MITの学生であったアイヴァン・サザランドが書いた論文には、まだパソコンという言葉もなかった時代において、今のVRシステムを予言するかのようなことが書かれていた。事実、「両目で見る3D映像を構築」、「自分の動きをセンシングし、オブジェクトを空間に固定して表示」、さらには「その世界の中で自分が動き回る」といった、現在のVRの主な要素はほぼすべて含まれている。
このコンセプトは先進的すぎたためか、20年ほど追従する人がなかなか出てこなかったという。だが、サザランドの元に集まった弟子とも言える人物の中には、アドビ、ピクサーなど、現在の画像・映像技術を牽引する企業の創始者たちがそろっていたのだから、現在の潮流と無関係ではないのは言うまでもないだろう。
この後、1989年にVPL Researchが「EyePhone」というシステムを発表し、ここでVR(Virtual Reality)というキーワードが初めて使われた。その後、多様なヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)がリリースされる「第一次VRブーム」ともいえる波が到来。国内であれば、任天堂が発売したバーチャルボーイを覚えている人もいることだろう。だが、こうしたハードの登場以後、第一次VRブームの波は収束。そしてここ3年ほどで、再びVRへの注目が高まりを見せている。
直近の「第二次VRブーム」ともいえるムーブメントは、主にスマートフォンの技術が進化したことが要因だという。高解像度の小さなディスプレイを専用機として作らなくても、スマートフォンの材料として大量に、安く手に入るようになったことで、技術がぐっと身近になった。専用機ではないので映像にゆがみは起こるが、CPUの力でまっすぐに補正することで利用可能になっている。