理化学研究所(理研)と日本電子は8月1日、同位体標識を用いずにタンパク質の二次構造の解析を行う核磁気共鳴(NMR)法を開発したと発表した。

同成果は、理研 CLST-JEOL連携センター 固体NMR技術開発ユニット 西山裕介ユニットリーダー、マノジ・クマール・パンディ研究員らの研究グループによるもので、8月1日付けの英国科学誌「PhysChemChemPhys」に掲載された。

左から、理研 CLST-JEOL連携センター 固体NMR技術開発ユニット マノジ・クマール・パンディ研究員、西山裕介ユニットリーダー

タンパク質の二次構造は、連結したアミノ酸が部分的に折り畳まれた構造で、タンパク質全体の形の基礎となっている。タンパク質の代表的な二次構造のひとつであるβシートは、タンパク質内の直鎖状の部分(βストランド)が隣り合って並ぶことにより形成され、βストランドが平行または反平行に並ぶ二種類に区別される。

アルツハイマー型認知症などの原因物質として知られるアミロイドタンパクは、βシート構造を豊富に含んでいるが、構造にばらつきがあるため、単結晶が必要なX線回折や中性子回折などの回折法やクライオ電子顕微鏡による解析は困難である。また水に溶けないため、溶液NMRを使うこともできない。したがって、アミロイドタンパクのようなタンパク質を解析するためには、炭素同位体13Cや窒素同位体15Nの存在比を人為的に増やした同位体ラベル試料を用いて、固体マジックアングル試料回転NMR法(固体MAS NMR法)を行う必要があるが、13Cと15Nの天然存在比はそれぞれ1.1%、0.36%と低く、その応用範囲は限られていた。

同研究グループはこれまでに、試料を高速に回転させることができる外径0.75~1mmの超小型NMR試料管を開発しており、また、地球に存在する窒素原子の99%以上を占める同位体である14Nの原子間の距離情報を得る14N/14N相関NMR測定法の開発にも成功していた。

今回の研究では、これらの技術の実証実験として、平行βシートおよび反平行βシートの構造を持つ2種類のアラニントリペプチドの微結晶試料を作製し、同試料1mgを用いて14N/14N相関NMRを測定。この結果、反平行βシート構造を持つアラニントリペプチドでのみ、βストランド間の14N/14N相関信号が測定された。つまり、平行βシートと反平行βシートを判別できることが示されたといえる。

上段:平行βシート構造とその14N/14N相関NMRスペクトル。下段:反平行βシート構造とその14N/14N相関NMRスペクトル。βストランド内の窒素原子間の距離は平行・反平行βシート構造のどちらも同じであるため、その相関信号はどちらにも表れる。一方、βストランド間の相関信号は、隣り合うβストランドにおいて最も近いアミド基(-C(=O)-NH-)のNHのH間の距離が短い反平行βシート構造のみに表れる (画像提供:理化学研究所)

西山氏は、「今後、試料をより高速に回転させたり、NMRに用いる磁石を強化したりするなどしてハードウェアの性能を向上させることにより、アミロイド構造をはじめとするタンパク質の構造解析やそれを標的とする創薬への応用につなげていきたい」とコメントしている。

理化学研究所 横浜事業所にあるNMR施設の外観。磁場の影響を受けないよう木造で、外装や部品も非磁性のアルミニウムからなっている

今回の研究で使われたNMR装置

NMRスペクトロメーター

NMR装置の内部の様子がわかる模型