――本社ビル内の社食「Premium Marche CAFE」も、ゆくゆくは一般利用者に対して開放するということですが、この取り組みはいわば「BtoC」の動きかと思います。コンセプトモデルの発表やトラクターのデザインへの取り組みなども含め、一般消費者に向けての情報発信が増えている印象ですが、「BtoB」のイメージが強いヤンマーがそこに重点を置く理由はどこにあるのでしょうか?

別の企業の話ではあるのですが、最近、僕は三井物産のブランディングプロジェクトにも携わっています。三井物産なんて、いわば究極の「BtoB」企業じゃないですか。それなのに、なぜ対外的なブランディングを強化するかと言うと、インターネットの普及などによって、「BtoC」と「BtoB」の間にある垣根がなくなってきているからなんですね。

ヤンマーの話に戻すと、一般の方々のヤンマーのイメージは「ヤン坊・マー坊」から来ているものが大きく、「ヤンマー=トラクターなどの農耕機械を作っている会社」という印象を持たれているかと思います。つまり、ヤンマーの活動はもっと多岐にわたっているのですが、それが対外的に伝わっていないんです。

「Premium Marche CAFE」にはハチの巣をモチーフとした席や、太陽光が贅沢に降り注ぐカウンター席などがあり、食事だけの用途ではなく、会議や打ち合わせなどにも使えるような場所としてデザインされている

――「ヤン坊・マー坊」は確かに従来のヤンマーの企業イメージを担っているように感じますが、佐藤さんが牽引しているブランディング方針は、それとは真逆の方向性に感じられます。

ヤンマーはトラクターを作っている"だけ"ではなく、人類全体に関わる「食料生産」と「エネルギー」というふたつの大きなテーマに対して、「次の100年」に向けたソリューションを提供しようとしているということを伝えていきたいんです。この目的を果たすためには、既存の方向性では難しいところがありました。

また、企業活動が広く理解されると、さまざまな情報がものすごい勢いで集まってきます。例えば、「PREMIUM BRAND PROJECT」を展開してから、これまでになかったようなお話が持ちかけられることが増え、相手企業の方から「ヤンマーがこんな活動をしているとは知らなかった」という反応が得られたりもしました。そういう意味では非常に良い効果を生みましたね。

――これまで「ヤン坊・マー坊」の領域であったトラクターやコンバインも、イメージはがらりと変わり、先進的なデザインになっています。トラクターに関しては昨年からですが、この方針転換も「BtoC」的な動きと言えるのでしょうか。

2013年に発表されたコンセプトモデルを量産化したトラクター「YTシリーズ」(左)、ヘッドマウントディスプレイで操縦する無人型バックホー(小型ショベルカー)のコンセプトモデル(中央)、トラクターと同じデザイントーンで仕上げられた自脱型コンバイン「YHシリーズ」(右)

そうですね。「農業」自体のイメージが変わっていかないと、そこにいろいろな知恵が入ってきませんから。「農業」というときつい仕事だというイメージが強く、若い人が集まりにくい現状があります。しかし、人が集まらないとイノベーションは起きません。そういう意味ではデザインがとても大切な役割を担っています。

また、ヤンマーが今回の発表で掲げた、農業を「エネルギーを消費する産業」から「エネルギーを生産していく産業」に転換するという目標は、非常にダイナミックなものだと思います。しかしまずは、さまざまな方に「農業は今こんなに進んでいるのか!」ということが伝わるだけでも、僕としては十分だと思っています。

――プレミアムカフェの一般開放と併せて、新型トラクターの展示なども本社ビルで行うご予定はありますか?

今のところ予定はありません。そういう意味では、農業機械のメンテナンスなどを行う「アグリソリューションセンター」がその役割を担っていくのだと思っています。農家の方が多い地域に作っている施設なのですが、そこを一般の方でも見ていただけるようなところにしていく方向で、プロジェクトの取り組みのひとつとして動いています。

これまで、「アグリソリューションセンター」は単に機械を修理するための場所で、人を迎え入れるような機能は持っていませんでした。その施設を活用し、奥山清行さんに店舗デザインを手がけていただき、グッズやアグリカルチュアルウェアを販売するなど、情報発信していけるような場所にしていきます。すでに北海道や熊本県などで、こうした新店舗を展開しています。

――前回発表されたファッションデザイナー・滝沢直己氏デザインの農業用ウェア「Y-CONCEPT AW01 PREMIUM AGRICULTURAL WEAR」は、スタイリッシュなデザインで大きな反響を呼びました。衣服方面の発表は今回特にありませんでしたが、今後の展開は?

同社がリリースした農業用ウェアとマリンウェアは、ISSEY MIYAKEのクリエイティブディレクターとして活躍した後独立したファッションデザイナー・滝沢直己氏によるデザインで話題となった

実は、大きくリリースはしていないのですが、アグリカルチュアルウェアをモデルにして、ヤンマーの工場など、社内ユニフォーム全体のリニューアルを行いました。これから特に大きな展開は予定していないのですが、今でもアグリカルチュアルウェアは農家の方々にご購入いただいておりますし、反響という意味では今も続いている状況です。

――最後に、デザインの力でさまざまな企業を生まれ変わらせてきた佐藤さんにとって、デザインが持つ力とはどんなものであるかお教えいただけますか。

やはり、デザインが持つ力というのは"人に伝えること"だと思うんですよ。デザインによって、それまで伝わっていなかったものが一転して伝わるようになったり、見えていなかったものが見えるようになったりということが起こりますから。

プロダクトでもインテリアでもグラフィックでもWebでも、ジャンルが違えど、デザインが「人の思いを形にして伝えていく」性質を持っています。現代社会ではコミュニケーションが非常に大事になっていて、いわば「言わなければ分からない」ものはたくさん埋もれている。だから、そうしたものを「見える」ようにする役割を担っているのだと思っています。

――ありがとうございました。