理化学研究所(理研)は11月21日、動物が危険を察知したときに、パニック反応を抑えて、冷静かつ適切に危険回避策をとれるようになるために不可欠な脳神経回路を発見したと発表した。

同成果は、理研脳科学総合研究センター発生遺伝子制御研究チームの岡本仁 チームリーダー(脳科学総合研究センター副センター長)、同 天羽龍之介 基礎科学特別研究員らの研究チームによるもの。米科学雑誌「Neuron」12月3日号に掲載される予定だ。

経験の浅いネズミは、天敵であるネコが現れる予感がする場面(猫の首輪の鈴の音が聞こえるなど)に遭遇すると、浅いながらの経験から危険を察知してパニック行動の一種であるすくみ行動を起こしてしまう。一方、経験を積んだネズミは、パニック反応を起こさないで、最も安全なルートを探して逃げ出すことができる。このような行動の変化は、これから体験することがどのくらい危険かという予測値「危険予測値」に反して、それほど危険でないような結果に終わり、「ほっと安心する」ことによって、危険を回避する特定の行動様式が強化され、適切な危険回避行動が修得された結果と考えられている。ところが、このような危険予測値が脳のどこでどのように表現され、情報として学習に利用されているのかはこれまでわかっていなかった。

今回、小型淡水魚ゼブラフィッシュの脳で、腹側手綱核という領域の神経細胞が、危険予測値に対応して活動することを発見。実験で腹側手綱核からの情報を遮断すると、危険を回避する学習である「能動的回避学習」ができなくなった。逆に、ゼブラフィッシュの腹側手綱核を、「光遺伝学」という手法を用いて人為的に活性化させると、危険を予測しているかのような回避行動が誘導され、危険予測値を植え付けることに成功した。また、魚類からほ乳類まで進化的に保存されている手綱核は、気分などに関わる脳内神経伝達物質のセロトニンを分泌する脳幹にある縫線核という領域の活動を調節しており、同結果から、危険予測値の情報がセロトニンによって伝わることも判明した。

同研究グループは「危険予測値を利用した適切な対応行動が学習できないと、本能的なパニック反応から抜け出せず、パニック障害などの疾患を引き起こすと考えられる。手綱核を介した危険予測値の情報がどのように伝わり学習に使われるのか、その仕組みを解明することは、このような疾患の治療法の改善につながると期待される」とコメントしている。

腹側手綱核-縫線核経路に神経伝達を遮断する破傷風毒素(緑色)を発現するように操作した遺伝子改変ゼブラフィッシュの脳切片。赤紫色は細胞の核。